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魔法少女リリカルなのは ViVid ―The White wing―
第三章
三十一話 刹那の妙技
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でも、掴むでもなく、ただただやわらかく包むような触れ方。クラナ自身にとっても殆ど無意識に為されたそれに、なのはは驚いたように目を見開くと、すぐにやわらかい微笑みに表情を変えてクラナの両の頬を手で包むと、額を合わせた。

「……昔、アルテアさんがこうしてくれてたの、覚えてる?」
「……はい」
勿論覚えていた。アルテアが人の緊張をいやそうとしたりするときによくやっていたスキンシップ。クラナも何度もされたことがあるし……

「私もね?子供の頃アルテアさんによくして貰ったの……緊張したりしてるときでも、安心できた……だから、真似だけど、こうしておくね……クラナが、今日、この後の試合も、その後も、ちゃんと頑張れるように……」
あの病院での時、なのはと母を重ねてしまって、思わず跳ねのけてしまった時に感じた恐れは、今もクラナの中に残っている。きっと自分は怖いのだろうと、あの時の事をクラナはどこかでそう分析していた。なのはと母を重ねるほどに、元々あった母の……アルテアの影が薄れて行くような気がして……同時に、母親(なのは)の事を、母親(アルテア)の代わりとしてしか見ていない自分を見せつけられるようで……

今とて、自分はなのはのしていることに、彼女(なのは)自身ではなくアルテアの面影を見ている。そんな風に他人の代わりにするような自分の心情に、嫌悪感を抱きもする。けれど少なくとも今、彼女から無理矢理離れることはしたくない。とどのつまり、彼女の言っていることは正しいのだ。アルテアと同じ、その動作で一言……

「頑張ってね、クラナ」
『頑張んなさい、クラナ』
そう言ってもらえるだけで、どうしようもなく、この心は奮い立つ。

「……はいっ」
『……うんっ』
もうそこに無い面影を追っているだけだと分かっていても……その言葉と動作が、心を落ち着かせ、自分の背を押してくれるのだから。


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