鎌鼬
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コンプレックスを感じているように見える。彼女が見せる『まやかし』は、女子供には効きが悪いのだ。
「…左側は俺だよ。わざわざ小型の向日葵を探して『小梅は小さいから、同じ背丈の向日葵がいい。よく見えるだろう』と」
一陣のつむじ風が足元を舞った。きゃ、と短い悲鳴が漏れた。
「んもう…」
飛縁魔の白いふくらはぎに、べったりと塗られた『薬』。きめ細かい肌が透ける、透明な粘液が
「…なに、じっと見てるの?」
し、しまった。つい食い入るように見てしまった。俺は咄嗟に目を反らす。飛縁魔は艶を含んだ微笑を浮かべて体をくるりと丸めて屈んだ。ふっくらした胸元から取り出した綺麗なハンカチで、そっと包み込むように『薬』を拭い、また仕舞い込む。
―――今の一連の動作をもう3回見たい。
「いいのか?ちり紙貸したのに」
つい、気遣いっぽい言葉が口をついて出た。
「鎌鼬の軟膏よ。…勿体ないわ」
大事そうに胸元に仕舞い込み、飛縁魔はもう一度、嫣然と微笑んだ。…どうにかなってしまいそうな流し目だ。直視出来ない。
「結貴が怪我したら、塗ってあげようかな」
「………う」
気が遠くなりそうだ。きじとらさんに振られたばかりだというのに、業の深さが嫌になる。俺はほぼ操られるような足取りで、ふらふらと石段を上った。ぼうっとするのは暑さのせいか…。
「頼まれてた件、調べておいたわ」
意外にも事務的な声で、飛縁魔が洞の奥の奉に呼びかける。奉は大儀そうにもそりと身をゆすると、ぱたりと本を閉じた。真夏にも肌寒い洞の奥で、奉は相変わらず古い羽織にくるまっていた。
飛縁魔と奉はどういう関係性なのだろう、と、ぼんやりする頭で考えた。
彼女は、奉に『仕事』を頼まれていたらしい。
「済まないねぇ」
「いいの、取引だもの。…暇だし」
奉から何らかの『報酬』を得ているということだろうか。…それにしても、だるい。眠い。
「…ずいぶんと、あてられたねぇ。一緒に来たのかい」
「んん、ごめんね」
―――成程、このだるさや眠気は、飛縁魔の気配にあてられたらしい。
「麻薬を嗅がされながら階段昇らされたようなもんだ。気にするな、寝ろ」
なにそれ怖い。俺は簡素な寝床に倒れ込んだ。薄れていく意識の中に、二人の会話が流れ込んでくる。
―――確認できている『鎌』は5体
―――被害は出ているけど、騒ぎにならない程度ね
―――うん、聞いた。それも足したら、風と薬は数合ってる。
―――鎌は、合わない。
―――3頭、足りない。
足りない…鎌が、タリナイ…たりない…鎌……は……。
弟の が、俺に×××××を差し出した。
△△△が、すぐそこまで来ているよ。怖いよ、僕は怖いよ。
大きな瞳を潤ませる
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