賢者の石
[1/11]
[1]次 最後 [2]次話
ゆったりと黒革の椅子に座り、机に置かれた手紙を持ち手まで漆黒の杖で弄ぶ。
千年桜と黒薔薇の蔦葛、芯は天狐の尾と心臓の琴線。37.8cm、気難しいが主人に忠実、狂信的。嫉妬しいで他の杖を使えば暫く外方を向く。二つの植物と二つの動物の部位を使用したそれは酷く強力で攻撃魔法に特化している。
杖先で封をトントンと叩くと独りでに手紙は浮き上がり、便箋が広げられ空中に留まった。
エメラルド色のインクで記された送り主に、僕……こと、マキナは目を眇めた。
何度目かの転生を果たした僕は何故か元いた世界から弾き出され、此処……魔法の蔓延る異世界で目を覚ました。
僕には心臓にとある石を持っている。病だとか精神的な例えだとかではなく、概念的な物質だ。等価交換という物を知っているだろうか。それは対価を支払う事で何もかもを叶える事が出来る世界の礎。叡智の結晶。真理の体現。それを永遠に守護する事が僕に課された使命。
元の世界ではそれを悪用され世界がループする事もあったが今は関係ないだろう。結晶はもう戻れぬとこの世界の全てを脳髄に叩き込む序でに突き付けたのだから。
大した事では死どころか怪我一つすらしない老いぬ肉体を持っているからか。気紛れに外へ出る他、今迄怠惰に生きてきた。が、如何せん暇過ぎた。
「姿を変えて幼子で外に出歩いた途端に、これか」
杖を振るう。
すると屋敷中から大鍋や教科書、羊皮紙、インク、羽ペン等が次々と宙を舞い部屋に運び込まれ、拡張魔法と重量軽減魔法の掛けられた黒いトランクに入ると、最後にぱちんと金の留め具が掛けられた。
「ふうん、ホグワーツ魔法学校案内……へぇ、」
声が聞こえる。されど周囲に人の姿はない。
「まさか生徒としてだとは思わなかった」
「全く以て同感だよ」
僕は基本成人の姿を維持している為、ホグワーツが干渉してくるとすれば教師か何かだろうと思っていた。が、蓋を開ければ入学許可証。此処は梟便では届かない為宛先が書き込まれる前に呼び寄せたのだが、想定外も想定外だった。
「今になって教科書を使う事になろうとは、ね」
くるくると杖を回して黒檀(エボニー)のデスクをコツンと叩く。ウェッジウッドのティーセットに注がれたダージリンの紅茶と茶菓子のメイズ・オブ・オナーの出来立てが直様現れた(これは魔法ではなく、石による等価交換なので杖を使う必要はない)。
「それもまた縁。それもまた一興」
パフペストリーのさくさくとした食感とカスタードのような甘いチーズがふわ、とろ、と舌を楽しませる。
フォークを置き紅茶を味わえば味わい深い香りが鼻腔を擽った。
「こうしてアフターヌーンティーを楽しむ自分だけの時間が無くなるのは些か不満だけどね」
「……君らしいね」
「ふふ。……ああそうだ、一応梟か何かを用意しておくといいかな?」
暫く紅茶を楽
[1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ