自己犠牲
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「あなたって……馬鹿なの? そんな黒マントなんか着ちゃって、少しくらいは気高い部族なのかと……」
嫌味を含んだ顔で笑うキャスリン。
男は悔しそうに反論する。
「いいから少し俺の話をきけ!」
――
真っ黒な姿の男は、今までのおおまかな経緯、ここへやってきた理由を説明した。
「見た目は姫と同じ……赤い目の女――姫の記憶が本当なら、お前はその女のことを知っている。そして、鍵となる本はお前が持っている」
キャスリンはその言葉につけ足して言う。
「――はずだった」
「!」
男は驚く。
「どういうことだ。なぜこんな所に引き込んだ? 俺の探していた本と違う本を出したのか?」
困惑する想いを侍女にぶつける。
「何者かによって持ち出されたのよ。部屋の扉には、無理やりこじ開けられた跡があったわ」
少女は自分を責めているようで、表情に影を落とす。
「あの部屋の扉を開けられるのは私……あるいは先代の本の妖精しかいないはずなのに」
(そうか……ということは、俺が来た頃あの扉はすでに開いていたという事か……)
男は個人的に複雑な思いで軽くため息をつくが、キャスリンに対して責める気はなかった。
「別にお前のせいじゃないだろ。とられたもんは取り返せばいい、今は他の方法を探せばいいのさ」
侵入者に励まされるとは、なんとも不思議な気分だった。それが的を得ているかは置いておくとして。
キャスリンは少々ほおを赤らめるが、徐々にいつも通りの冷静さを取り戻していく。
「フォローされる必要はないわ。他の方法というのは、とっくに分かってた事だもの」
少女は俯いたまま、つぶやく。
「ただ、もう――時間切れよ。ずいぶん物語が止まってしまったもの」
意味深な言葉のあとに、何やら呪文らしいものをつぶやくと、彼女の体は淡い光を放ち始めた。
「この世界のお話は、主人公が一人二役だなんて、変わってて――」
どこか懐かしい――故郷を思うような、優しい緑の光に包まれたこの空間で。微笑む少女は綺麗だった。
「こんなのは初めてで……とても楽しかった」
少女が発した光は、少女の差しだした両の手ひらの上に集まり、本の形となっていく。
「私の想いは、あなたになら託せる――お願い、どうか、もう一人の……私の姫様をお救いください……」
少女は弱弱しく言葉を紡ぐ。
本が現れるのと引き換えに、その姿は光となって消えていく。
「この本では微力でしょうが、きっとあなたの物語の力となるでしょう……どうか……あの囚われの、憐れな姫を――助けて……」
少女は本の中に消えていった。それでもなお、最後に言った“助けて“という声は、男の頭から離れなかった。
その悲痛な
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