自己犠牲
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多の星があり、自ら光を生み出すもの、光に照らされて輝くものと様々だ。そしてそれらは美しい光景を創り出す。
しかし本当に美しい景色というものは、本の中の世界であり、実際にはそれほど美しい星空というものは見たことがないかもしれない。
いや、大昔には見たかもしれないが、きっと数千年くらいまえのことだ。すでに忘れてしまった。
それならば再びこの目で見るのもいいかもしれない。そしてそれを一人で見るのだろうか、それとも誰かと――少女に見せてやったらどんな表情をするのだろう――赤い瞳を大きく見開き、驚いた顔を見てみたい。男はそれを必ず実現させると心に決めた。
そのためには、少女を死なせるわけにはいかない。自分もこの空間からでなければいけなかった。
「……そうだろう? ジャック・ジン・ジーキルよ」
――
男が自分に向かって語りかけるのを、ただ黙って聴いていた。いや、ジャックにはそうすることしかできなかった。
しかし、こうしてじっと縛られ続けることは、ジャックにとって限界だった。
「そうだろう? ジャック・ジン・ジーキルよ」
その言葉にジャックは覚醒した。
『なぜ……だ……。なぜその名を……僕の本当の名を知っている?』
知っているものは両親だけのはずだったその名。母親は生きているのかどうかわからないし、父親は人殺しの罪を犯したのちに自殺した。
自分の真の名を知っているものが他にいるという事が信じられなかった――それは自分が人殺しの息子だという事実と結び付けられるようで恐ろしかった。認めたくなかった。
「俺の名はハイド・エドワーズ……とでも言っておこう。ずっとお前の中に隠れていたのだ。お前の事ならなんでも知っている」
それはジャックにとって一番恐ろしいことだった。他人に決して心を開いたことがないジャックにとって。
しかし男は構わず続けた。
「恐れることは何もない。俺はお前自身でもあるのだ。分裂した二つのお前のうちの一人が俺なのだ。だが、このままでは力が足りないらしい。お前の力が必要だ」
男の言葉の意味に納得できず、怒りさえも湧いてきた。
『僕の体だけじゃなく、僕の全てを奪うのか? ……ふざけるな』
しかしジャックの怒りなど、男は気にも留めなかった。
「お前より俺の方がよっぽどうまく体を使えているぜ?」
さらには挑発までしてくる始末だ。
「おっと、ここでお前と俺様が争っている暇はない。人間の人生は実に短い。もっと生きている時間を有用に使わないか?」
ついには悪魔の姿で説教まで始めてしまった。
『……あんた、俺の事ならなんでも知っているんだな? なら教えてほしいことがある』
呆れて怒りを忘れたジャックの問いかけに、男はニヤリと悪魔の
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