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自己犠牲
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想いは侍女だけの想いではないのだろう。
――赤い瞳の、記憶の中の少女との、幾重にもなった叫びなのだろう。
 少女は涙とともに消え、ぽつん、と男の足元に本が残されていた。
「ちくしょう……何だって言うんだ。俺には何も出来ないって事か!?」
 苛立つ男のみが、しばらくその場に残って佇んでいた。


――


 静寂の中で男の苛立ちは増す一方だった。
「消えてまで……そうまでして守りたいのかよ。大そうな自己犠牲だな」
 自分の命よりも他人を優先させる、それが男には理解できなかった。
 自分のいない世界で何かを守って一体どうなる。また、そうさせるほどの存在とはなにか。考えたとしても想像もつかないし、自分にはないものだった。
 それに。自分の無力から犠牲を出したように思えて納得がいかない。不甲斐なくて悔しい。
(そもそもなんで俺様がこんな想いをしなければならないんだ?)
 あの少女は自分にとってそれほどの存在なのだろうか。会話をしたこともなければ、そもそも会ったことすらない、そんな相手が。
 しかしそれよりも頭に浮かぶのは、自分にできることは何か、という想いだった。
(俺に出来ないことなど……いや、何ができるんだ。何もできないのか?)
 そして口にはしないが、頭の中では絶望の言葉に苛まれていた。それを打ち消すことを繰り返す。

「考えてばかりってやつが一番いけねぇ」
 不意に言葉を発する。自分の弱さを消すためには、前に進むしかない。
 足元の本に手を伸ばす。
 そしてそれに触れるか否かのうちに、本の中から悲痛な想いが溢れ出てきた。
“助けて……! 誰か……”
 この声は誰のものなのか、少なくとも二人以上の少女の想いであることは男には分かっていた。


――ここは先ほどの本の中の世界なのだろう。男は真っ暗な闇の中にいた。
 やはりどこを見渡しても光は一筋も見当たらない。まっくらな空間だ。
「おい」
 男は誰もいないその空間に向かって問いかけた。一体誰が返事をするというのだろう。
「…………」
 そしてやはり、返事などない。
「いつまでそうしているつもりだ? どうやら今の俺の力ではどうにもならないらしい」
 男は確実に、“自分以外の誰か”に向かって言葉を放っている。諦めたような、開き直りの言葉を。
「……この体は本来お前のものだ。お前がいないと俺の完全な力が出ない。力を貸してくれ。」
 そういうと男は自分の持つ力を開放し、言葉を発するのをやめた。
 そしてしばらくそのまま――脱力した状態で空間に漂っていた。男はここが星のない宇宙のような所だと思った。
 宇宙に行ったことはない――いつか何かの本で読んだくらいだ。
 宇宙には数
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