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俺の四畳半が最近安らげない件
魔王 〜小さいおじさんシリーズ15
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云いたくないが、あの状況から立て直した曹丕殿は確かにとても優秀な統治者でした」
「ならば貴様ならあいつに跡目をと云えたのか!?」
羽扇を払いのけて豪勢が叫んだ。…ぐぬぬ、じゃないのか?新しい展開か?
「あいつのああいう部分を小さい頃から見て来た余は…全権を託すとは云えなかったのだ!!」
「お、おう…」
お、押されてる。白頭巾が押されているぞ。珍しい。
「余が身罷る時点であいつを諫めてくれそうな臣下が居れば話は変わったが、あの気性だ…普通飽きたからって正室を殺すか!?愛人に埋葬させるか!?あの美しかった妃が、髪をくしゃくしゃに乱されて、口に糠を詰められて、憐れな姿で棺桶すら与えられずに直埋めされたのだぞ!!他に選択肢がない事など痛い程承知だ、しかし余は!!」
口角泡を飛ばして怒鳴る。豪勢が言葉を切った時、俺の四畳半は水を打ったように静まり返っていた。
「…あいつに後の世を託すのが恐ろしかった。一歩間違えば、この世に地獄を現出させる魔王となるのではないかと…」


この傲岸不遜な男から、こんな言葉を聞くなんて。


俺は密かに驚いていた。在位わずか7年だった彼の後継者のことを、俺はさらっとしか知らない。この曹丕という男がもう少し、長く生きていたら、魏はどうなったのだろうか。
「私が聞き知っている限りですが」
羽扇を引いて胸元に戻すと、白頭巾はすいと裾を引いて脇息にもたれた。
「彼はとても神経質な性分で、人の好き嫌いが激しかったと云いますね。嫌いな人間はゴミのように排除するが、気に入った人間には地位や立場に関わらず胸襟を開いたと。ならば、曹家を僻地に追い込み転封を繰り返して力を削いだのは何故でしょう。曹家の者達を利用しての反乱を防ぐ為だという話もありますが、その行為は結局曹家全体の首を絞め、司馬氏の台頭を許してしまったのです。聡明な彼にそれが予測出来なかったとは考えにくい」
いつもの気に障る忍び笑いが鳴りをひそめた。白頭巾はは再び、カーテンの隙間の月を眺めた。


「―――彼は最初から、曹家を滅ぼすつもりだったのかも知れませんね」


豪勢がふと、顔を上げた。白頭巾は続ける。
「ただ嫌いだったのではないですか、自分も、曹家の何もかもが」
「…そうか。だからあいつは」
それだけ云って、豪勢は言葉を切った。だからあいつは、俺の前に現れないのか。そう云いたかったのだろうか。しばらく3人は、押し黙ったままぼんやりと空を睨んでいた。新月の光は仄かで、電気を消してしまうと彼らは輪郭くらいしか見えない。鰹を炙っていた蝋燭の火だけが、彼らを静かに照らしていた。
「オールレーズンとやらが気に入ったようだな…絶やさないでもらえるだろうか」
…俺に云ったのか?誰も返事をしない。どうすればいいのか分からなかったが、俺はただ頷いた。
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