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俺の四畳半が最近安らげない件
魔王 〜小さいおじさんシリーズ15
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どこか狂っている。
他にも寵愛していた甄氏に文句を云われたなどという理由で殺したり、跡目を争った実の弟に、七歩のうちに詩を吟じられなければ殺すと無茶振りして消そうとしたり、関羽に降伏して捕虜になった于禁を陰険な手を使って死に追い込んだりと、どうにも逸話が香ばしいんだよなぁ…こいつもしや…とは俺も思ってはいた。
「于禁殿とは何度かご一緒したことがございますが…実直で聡明な、名将でしたよ。関羽殿もその人物を惜しんで数万人の捕虜を受け入れたのです。それを…あのような子供じみた辱めを」
そう言い捨てて、白頭巾は羽扇を軽く翳した。表情は見えないが、ぎりり…と小さな歯ぎしりの音が聞こえた。
「む?于禁と云えば魏でも古参の名将ではないか。我々もあの知略には苦しめられたものだが…曹丕殿は、于禁に何を?」
豪勢はそっと口を噤んで目を反らした。このお調子者のおっさんに似合わずため息すらつきそうな風情だ。
「解放されて帰って来た于禁殿を、父親の墓に連れて行ったのです。…ご丁寧に、関羽に降伏せずに斬り殺された?徳と、命乞いをする于禁殿の絵を父親の墓石に落書きして」
「うっわ…」
端正が一歩引いて肩をすくめた。
「ないわー、もうほんとないわ、あいつ。親の墓に落書きとか絶対ダメだろ、当時は特に」
「ほんそれ。ないですよあの人格異常者」
「ぐぬぬ」
―――少し前の創作では于禁といえば狡賢い敵役のイメージだったが、最近では樊城の戦いにおける于禁の『降伏』により、関羽は『邪魔くさい』数万の捕虜を抱えることになり、それは結果的に関羽軍の動きを鈍らせ、財政を圧迫し、何より数万の手勢の命を救った英断であったと再評価されている。その辺は豪勢が大好きな『蒼天航路』でも採用されている。だからこそ、更に浮き彫りになるのだろう。

曹丕という男の異常性が。

「于禁のついでに貴方もガッツリ貶められてますねぇ…くくく…」
白頭巾が羽扇の陰で笑う。…あーあ、また始まったよ。
「………」
「何か恨まれること、したでしょう?」
「跡目を有耶無耶にしたままに死んだ…だがそれは!」
何かを言いかけた豪勢の胸元に、す…と羽扇が突き付けられた。
「詩の才にも政治の才にも恵まれた長子よりも、ちゃらんぽらんだが詩の才『だけ』には恵まれた弟を溺愛する余り、跡目のことをはっきりさせずに諍いの種を残して死んだことも…その一つでしょうが」
うぉう、いつもに増して容赦がないな。
「求賢令とやらで許?やら典韋やらの脳筋武将をアホほど集めて弁の立つインテリ武将は鼻についた途端に干して、そんなだから人材はやたら豊富だが末端の指示系統はグダグダ…あの組織、四番バッター多すぎて貴方にしか扱えない状況だったでしょう。しかも跡目のことも曖昧だったせいで側近は真っ二つ。超ハードモードからのスタートですな…
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