暁 〜小説投稿サイト〜
艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第三十二話 帰投
[10/11]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

「危ない!!来ちゃ駄目!!」
紀伊が叫び、讃岐を庇うように飛び出そうとした。その視界の隅に完全にこちらを射程に収めている敵艦があった。
(もう・・・駄目・・・!!)
かなわぬまでも残った主砲で応戦しよう。紀伊がそう思った直後だ。轟音と共に殿艦の姿が吹き飛んだ。はっと紀伊が目を向けると、彼方に2人の艦娘の姿が見える。大井と北上が敵艦隊の左翼に回り込んで、一斉雷撃を仕掛けたのだ。戦艦だけでなく随伴していた重巡や軽巡、駆逐艦も雷撃の波状攻撃を受けて次々と撃沈されていく。紀伊の眼に敵艦隊の向こう側、傾きかけた西日を背に展開している二人の艦娘の姿がありありと映った。
「紀伊さん、もう少しだけこらえてください!!くそっ!!敵の軽巡に邪魔されなければ!もう少し早く攻撃位置につけたのに!!」
「大井っち、あんまり接近しすぎると狙い撃ちされるよ。」
「まだまだ!!大丈夫です!!私の北上さんを襲おうとする○○は、一隻残らず海の藻屑にしてやるわ!!」
大井が叫びまくりながら魚雷を撃ち続ける。
「大井っち、そんなに張り切ると魚雷なくなっちゃうって。」
「大丈夫です。こんなクソ艦隊、主砲だけだって仕留めることはできます。」
「も〜〜相変わらずだなぁ。」
北上がぼやいたがそれでも彼女も手を休めることはしなかった。二人の重雷装巡洋艦のおかげで敵艦隊は次々と撃沈され、残った深海棲艦も逃走を始めていた。もう勝負は決したとみていいだろう。
「間に合った・・・・・。」
紀伊は全身の力が抜けそうだった。ここまで連戦し続け、気力も体力も限界にきている。その上腕の痛みも加わってきた。包帯のメディカルヒーリングの効果が薄れ始めていた。
「紀伊さ〜ん!!」
清霜の声がする。付近にいた彼女が真っ先に駆けつけてきた。その後ろに矢矧たちがいる。讃岐も嬉しそうに手を振りながら走ってきた。
「皆さ――。」
不意に自分の右横を鋭い風が走り抜けるのが感じられ、目の前で大爆発が起こった。自分にぐらりと倒れ掛かる重い体を抱き留めた紀伊は反射的に後ろを振り向いていた。

 ただ一隻、手負いではあるが、こちらに向かってくる深海棲艦がいる。6隻の中で中破して撃沈できていなかったフラッグシップだ。
「くそっ!!あいつまだ!!」
讃岐が果敢に前に出て残った砲を撃ちまくり始めた。霧島も比叡を矢矧たちに預けると、前面に突出し砲火を浴びせていく。敵は次々と被弾するがまるで艦隊の怨念を背負っているかのように進撃をやめない。それを見た愛宕が機敏に側面に回り込んで20センチ砲を構え、魚雷発射管を相手に向けた。
「主砲、撃てぇ!!」
彼女の主砲、そして魚雷は敵艦に命中したが、それでも進撃は止まらない。
「紀伊さん、逃げてください!!」
「紀伊姉様!!」
「紀伊さんッ!!」
「逃げて!!」

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ