第三十二話 帰投
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受けます!」
「そんな、紀伊さんも負傷しています!私なら、大丈夫・・・ぐっ!」
「いったん後退してください!艦隊旗艦としての命令です。急いで!」
紀伊の叱咤に霧島と讃岐はうなずき、戦線を離脱した。きっ、と紀伊は敵艦隊の戦列を振り向き、3人を庇うように前面に出ると凄まじい速度で撃ちまくり始めた。同航戦のまま双方が撃ちあい、こちらは6隻の戦艦のうち嚮導艦を含めた3隻を撃沈することに成功、2隻を中破させていた。だが、敵の艦隊のうち最後尾に位置する無傷の殿艦の砲撃がすさまじく、4人は少なからず被害を受けている。そして先ほどの砲撃で比叡が戦線を離脱してしまった。霧島と讃岐が戻ってくるまで、紀伊が一人で支えなくてはならない。
(3対1か・・・・。大和さんや長門さんたちみたいな純粋な戦艦ならともかく、私の様な中途半端な戦闘艦がどこまでやれるのかな・・・・。)
41センチ3連装砲を装備しているとはいえ、装甲は純粋な戦艦には到底及ばない。それは紀伊型空母戦艦が速力を武器にしているからこそだが、今の局面では逆にそれが不利な要素になってしまっている。
(でも、やらなきゃ!!)
紀伊はそう決意し、主砲弾に徹甲弾を装填、狙いを殿艦に絞ったが、ふとその時妙な感じを抱いた。この時には敵側同航艦隊に戦艦の劣勢を見て取った重巡戦隊や軽巡戦隊が加わっていたが、矢矧たちの奮闘で追い散らされつつある。双方が凄まじい砲撃戦を演じていて、海上はひっきりなしに立ち上がる水柱、爆炎などで沸き立っていた。その中に見慣れない異形の深海棲艦を見つけたのだ。それは先頭には参加せず、敵艦隊のさらなる向こうに遊弋しているだけだった。
「あんな高い柱のようなものを装備した深海棲艦・・・・いたかしら?って、いけないそんなことを考えている暇はないわ!!」
疑問を抱きつつ、紀伊は目の前の目標に意識を切り替えると、手を振りぬいた。
「きゃあっ!!」
同時に敵艦隊の砲撃がすぐ近くの海面に落ちた。直撃ではなかったが、その衝撃で主砲の仰角と向きが狂ってしまい、狙いがそれてしまった。
「しまった!?」
主砲弾は立て続けに殿艦の前を航行している中破戦艦を襲い、撃沈に成功したが、無傷の殿艦から放たれた砲弾が紀伊の主砲を襲った。
「ぐっ!!!」
衝撃がおさまってみると、使える主砲は1基、それも砲身が2門折れ曲がっており、1門だけになってしまっていた。
「しまった!!」
艦載機を発艦できず、戦闘力が激減してしまっている今、紀伊は絶体絶命だった。加賀、赤城が割いた艦載機隊は敵の戦艦攻撃や重巡戦隊に対する攻撃で消耗しきってしまい、上空からの援護はできない。
敵殿艦と中破した戦艦の砲がこちらに向けられる。
「姉様ぁッ!!!」
讃岐の声がする。振り向くと、讃岐が必死の形相で全速力でこちらに向かってきていた。
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