第三十二話 帰投
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えましく思う余裕は紀伊にはなかった。
「敵との距離、約5万!!」
讃岐が叫んだ。紀伊たちは覚悟を確かめるようにうなずき合い、一斉に白波を蹴立てて進み始めた。進みながら紀伊は自部隊が不利なことを自覚しないわけにはいかなかった。敵空母6隻からの艦載機隊は脅威だった。赤城と加賀は最強の第一航空戦隊の双璧だ。だが、その二人の力をもってしても五分五分に持っていけるところがやっとではないかと紀伊は思っている。数が違いすぎるからだ。だが、それでもあの二人はやる。きっとやる。絶対に敵の艦載機をこちらに向けさせない。紀伊はそう信じていた。
そして、一番の山場であろうル級高速戦艦との渡り合いについて、紀伊は不安だった。何しろこちらは4人のうち二人も負傷しているのだ。やりきれるだろうか。
「見えた!!左舷に敵艦隊!!」
比叡が叫んだ。紀伊が左を向くと、単縦陣形でこちらに接近してくる敵艦隊が見えてきた。
「まだ日が高いうちに会敵できてよかったですね。これが夕方であれば日を背にしている敵にとって有利です。」
霧島が言った。
「ええ・・・全艦隊、戦闘配備!!短時間で敵を撃滅します!!」
敵の陣容が見えてきた。戦艦部隊を中心にその後方には重巡、そして軽巡部隊がいる。本来なら重巡と軽巡が真っ先に突撃してくるはずなのだが、今回はそれがない。紀伊はそのことが不思議だった。
「敵は・・・やはり高速戦艦フラッグシップ。」
霧島がつぶやく。戦艦部隊の陣容がはっきりした。敵は6隻の戦艦を擁している。それもフラッグシップ級でしかも高速戦艦ばかりだ。対するにこちらの戦艦は4人しかいない。しかもそのうちの二人は空母戦艦で純然たる戦艦ではないし、おまけに負傷している。讃岐に至っては使用できる主砲は1基だけだ。さらに敵は高速艦隊なので、こちらの高速戦艦の利点は強みにならない。
この状況下で敵の戦艦を追い払い、無事に帰ることができるだろうか。戦闘準備に移行しつつある全艦娘たちを見ながら紀伊はふとそんなことを思っていた。
(いけない!!そんな弱気なことを思っていては勝てない!!いいえ、勝たなくていい。全員無事に連れ帰ることができればそれでいい!!お願い・・・綾波さん・・・神様!!!)
今はそばにいない綾波に紀伊は祈りかけていた。
「大丈夫ですよ。」
紀伊は振り向いた。霧島が微笑んでいる。だがそのほほえみの中には不敵な色合いが混じっていた。
「私たちはどんな敵にだって負けません。それに、戦艦同士の戦いは私の望むところです。前世では後れを取りましたけれど・・・・今回はそうはいきません!」
「私も!前世みたいにもう二度と足をやられたりしないから!」
霧島、比叡の二人が闘争心を示している。さすがは戦艦だと紀伊は思った。
(私も、二人に負けないように頑張らなくちゃ!!)
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