紫煙の記憶
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「ところでAdmiral、こっちの炒め物はなぁに?」
カツ丼をモシャモシャと頬張りながら、箸できんぴらをつつくビス子。行儀悪いぞ、ったく……。
「それはきんぴらだ。その右側のがゴボウと人参のきんぴら、左のが大根のきんぴらだ。」
「ふ〜ん、キン・ピラーって言うの……。」
何だよそのウルトラ怪獣にいそうな名前は。ビス子は小鉢を持ち上げ、きんぴらごぼうの香りをスンスンと嗅ぐ。
「あら、香ばしくて良い香り。」
「きんぴらはごま油を使うのがメジャーだしな。そこに焦がし醤油の香りも合わさって、堪らない香りになる。出来立てのきんぴらってのは香りまで美味いんだ。」
「ふ〜ん、じゃあ一口……。んっ、結構しょっぱいわねコレ。」
まぁな、我が家のきんぴらの作り方なんで、地域性もあるのかも知れんが、ウチのきんぴらはしょっぱ目の味付けだ。
「けどな、そのしょっぱさが飯にも酒にも合うんだよ。」
俺もきんぴらを一口。…うん、この塩っ辛さ、懐かしいねぇ。そこに冷や酒をキューっと流し込む。
「かぁ〜っ、美味い。」
熱燗も美味いが、やっぱり冷やの方が俺は好きだね。因みに銘柄は「陸奥八仙」。俺の地元の近く、八戸の酒蔵が出している地酒だ。コイツはその純米大吟醸華想い50、その名の通りに味も香りもまるで華のような鮮やかさだ。オススメは15℃〜16℃位の涼冷え。冷やしすぎると折角の香りが立たなくなるからな。
「しかし、Admiralってホントにお酒強いのね。」
「そうかぁ?普通だろこれ位。」
熱燗で朝から5合、今の冷やを飲み干せば7合か。まだほろ酔いにもならねぇ量だ。青葉が以前『自覚が無いって、恐ろしいですね……』と青冷めてたが、一体何の事だ?
腹も程よく満たされて、酒も身体が温まる程度には入ってきた。そうなってくると、今度は別の刺激が欲しくなる。
「なぁビス子、煙草吸って良いか?」
「えぇ、構わないわ。でも意外、Admiralも煙草吸うのね。」
「まぁ、ほとんど吸わないんだがたま〜にな。無性に吸いたくなる時がある。」
こうした気を緩められる時位か、煙草に火を点けたくなるのは。普段は吸いたいなんて滅多に思わんのだが、ふと吸いたいと思うと我慢できなくなる。
了承も得たので遠慮なく、一本くわえて火を点ける。一息吸って、そのニコチンとタールを肺に満たしてやる。そして鼻から紫煙を吐き出してやる瞬間、煙草に混ぜられていたフレーバーが鼻腔をくすぐる。元々は海外の銘柄の煙草で、バニラやカカオ、チェリーといった甘い香りが付けてある。今日はチェリーをチョイス。部屋の中にもチェリーの甘酸っぱい香りが拡がっていく。
「Admiral、私にも一本貰えないかしら?」
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ