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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百十九話 内乱終結後(その3)
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なればさらに力は失われる。
「私にスパイになれと言うのか」
「そうです」
「これまでの仲間を裏切れと」
ラートブルフ男爵が苦痛に満ちた声を上げる。そんな男爵を見てエーリッヒが溜息を吐いた。
「男爵、正直に言いましょう。私はフェザーンに集まる人間達を恐ろしいとは思いません」
「ならば何故」
男爵の問いかけにエーリッヒは一瞬だけ目を逸らした。
「私が恐れるのは彼らを利用しようとする人間達です。帝国に敵意を持つ人間にとって帝国を混乱させる事の出来る人間、その可能性の有る人間は利用価値があります。必ず接触し、支援し、利用しようとする……」
「……反乱軍か」
「アドリアン・ルビンスキーも居ますね。他にも接触してくる人間は居るでしょう。それを男爵に探って欲しいのです」
「……」
ラートブルフ男爵は迷っている。爵位と裏切り、その狭間で迷っている。
「彼らを救う事も出来ますよ。フェザーンで不平を述べているだけなら問題ない。しかし唆されて反帝国活動を行なえばそれなりの対応をとらざるを得ない。そうではありませんか」
「……」
「ですが男爵が事前に教えてくれれば、こちらでも手の打ちようがある。彼らをただの不平家の集まりにしておく事も可能です」
「……」
ラートブルフ男爵はエーリッヒの提案を承諾した。迷っていたが最後には頷いた。他にエーリッヒの提案をシェッツラー子爵、ノルデン少将が受け入れた。ノルデン少将は中将の地位が条件だった。ラーゲル大将には接触しなかった。彼を利用すれば上級大将という地位を用意しなければならない、いくら何でも本人が信じるとは思えない。
四人中三人をこちらの内通者にした。大成功と言って良いがエーリッヒの表情には喜びはない。機密保持のために用意された小部屋、今この部屋には俺たち二人しかいない。誰に見られるわけでもない、それなのにエーリッヒは憮然としたままだ。いや、それだからなのか。
「エーリッヒ、何故此処に来た?」
「……」
「俺の方でやっておいたのに……。俺では心配か?」
エーリッヒは俺を見詰めた。
「そうじゃない、この策は私が考えた。だからだ」
「馬鹿な、何でも自分でやるつもりか? 幾つ身体があっても足りないぞ」
「……ギュンター、場合によっては私は彼らを切り捨てる事になるかもしれない。いや多分切り捨てる事になるだろう。彼らは私を恨むだろうね。だから自分達を地獄に突き落とす人間の顔を良く見せておこうと思ったんだ」
そう言うとエーリッヒは視線を逸らした。
「エーリッヒ、彼らだって薄々は気付いている、その覚悟は有るだろう。その上で選択したんだ、卿が罪悪感を感じる必要は無い」
「しかし、受けるように誘導はした……」
エーリッヒは視線を逸らしたままだ。
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