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先恋
先恋〜届かない最後の願い〜
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気がつくと、もう夜中だ。沙奈は家に帰った後、ベットに倒れ、泣き疲れて寝てしまったらしい。
「…あ…もう、こんな時間か…」
沙奈は小さく呟き、枕に顔を埋めた。
「…も…忘れなきゃ…なのかな…」



同時刻、陸太も眠る事ができず、ベットの上、天井を見上げていた。
「…あっちに帰ったら…もう、全部忘れられる筈だから…それで、もう……」
沙奈の事は忘れると、陸太は自分勝手ながらも、自身に誓った。本当に、勝手だ。自分でも分かる。何て卑怯な事だろうか。自分でも自分が憎い。陸太は眉間に皺を寄せ、そっと、目を閉じる…と、ドアを軽くノックする音と共に、自分の名前を呼ぶ母の声が耳に届く。
「…何?」
「引越しの事なんだけど…」
「…うん、」
「お父さんも、陸君があそこが良いなら…って言ってくれてるから、あそこに行こう?」
「…うん、」
陸太は何処か安心したように感じた。何かに解放される気もした。決して、逃げられるわけでは無いのに…。



引越しは来月という事になった。陸太はそれまで、学校や、今住んでいる場所の事を少しだけでも心に残すべきだろうと考え、自分の好きな場所、まぁまぁ仲の良かった友人などとの会話も大切にした。全ては逃げるため、罪悪感を消すためだった。何処までも汚いものだと陸太は苦笑した。自分の汚さに、発せられる言葉など無かった。言い訳の言葉も、詰まらないものしか無い。騙せるのは、いや、思い込ませられるのは、自分の心くらいだ。実際の所、誰も自分を許してなどくれない。誰より、沙奈は…許そうなどと思う事すらも無いだろう。陸太はそんな気持ちを打ち消すように、残りの日々を過ごした。
そして__、引越しの日が、翌日にまで迫る。陸太は荷物をまとめ、住み慣れたその家で、最後の夜を過ごす。

「…もう、これで最後だな…、楽しかったな…、僕があんな事…しなければ、あんな関係を築かなければ、二人共、傷付かずに済んだのに…ごめん……、ごめんね…」
そのとき流れた涙は、家との別れを惜しむものだと、自分に必死に言い聞かせた。全て、忘れると誓ったのだから、それに対して泣くなど、許されない。何処かでそう思っていたのかもしれない。



引越しの時間が刻一刻と近付く。胸に何か尖ったものが刺さっているような感覚に襲われていたのは、陸太だけでは無かった。沙奈も、どうすべきかを、答えなど分かる筈も無い自分に問いかけていた。
「……ペンダント…私に渡したって事は、陸太君は…もう………」
それ以上は言わなかった。いや、言えなかった。沙奈の目からは大粒の涙が流れた。止まる気配も無い。拭っても拭っても、溢れるそれを止める事など、沙奈には出来ない。
「…も…何なの…わけ…分かんな…い」
許されるのなら…この罪が、少しでも軽くなるのなら、この胸の痛みが、棘
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