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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 36
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顔を見られた後では、此処で死んでも不自然だ。
 自分が今更何をどうしても、もう遅い。
 ただ此処に居て、バーデル軍が合流して、何もできないまま戦争が起きて、みんなが傷付く。
 傷付いて苦しんで、ハウィスが……「あの日と同じ」……赤く染まって、土気色になって、冷たくなって……嫌だ…………嫌だ嫌だ!!
 (誰か 誰か、お願い)
 「……たす け…… てぇ……っ」

 みんなを ハウィスを 助けて !!


 
 「……『     』か」
 ふと。
 指先で自身の顎を撫でるエルーラン王子がボソッと呟き、頷いた。
 ミートリッテとハウィスに集まっていた視線の一部が、王子の顔へと移動する。
 「ええ。『ビコロール』です」
 近くに控える騎士達にも聞き取れなかった王子の言葉をなぞり、イオーネと腕を絡めたままのアーレストも頷く。
 「よし。予想してた中じゃ一番面倒臭いが、気分は最良の選択肢だ。あいつもそろそろ限界だろうし、もう良いぞアーレスト。私が許可する」
 体の正面をイオーネとアーレストに向け、清々しい笑顔で右手をヒラヒラ泳がせる王子。
 一方のアーレストは、眉を寄せて怪訝な表情を作った。
 邪気なんか微塵もありません! と主張する満面の笑みを暫くじーっと見つめ……やがて、諦め混じりの溜め息を溢す。
 「……一応、念の為に確認しますが……『女神アリアの憂愁は』?」
 「『我らの罪と心得よ』。オニーチャンを信じなさい!」
 王子が白い歯をキラリと光らせ、親指が立った左拳を前面に突き出した……
 瞬間。
 「!?」
 イオーネの体が、宙を舞った。


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