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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 36
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ね!」
 イオーネの高笑いが遠くに聴こえる。
 脳を引っ掻くような耳鳴りが、ミートリッテの内と外を隔てていく。
 何故……イオーネ達の正体が暗殺者だと聴いた時、もっと疑問に思わなかったのか。
 彼女は、マーマレードの香りを放つミートリッテを「アーレストの教会で」見付けた。
 ミートリッテが七年間一度も足を運ばなかった教会で、だ。
 その後ミートリッテを追跡した結果、普段はあまり会わないアルフィンや、隠れていたブルーローズの存在、村の内情を何かしら知ったという。
 つまり、イオーネがネアウィック入りしてシャムロックを見付けたのは、『海賊の依頼遂行初日』。
 バーデルの軍人達が無断で国境を越えて来た日だ。

 バーデル軍の捕縛対象は最初からイオーネ達だったと認識を改めた場合、これはおかしい。

 商人達の惨殺死体発見後、バーデルの上層部は殺人犯の割り出しに相当力を入れていた筈だ。
 国の運営に関わる商人が領土内……しかも、形式上は王国軍所属の警備隊が護っている国境付近で大勢殺されるなど、経済悪化と国民の不安を招く要因にしかならない。
 各国の商工会が円滑な取引を目的に作った国際商会連合からも、アルスエルナと繋がる道の安全性が欠けた影響で、かなりの苦情と叱責を喰らっただろう。
 商人にとっては時間も貴重な商品だ。安全且つ速やかに往来可能な主要道路の一本も満足に維持できない国には、利益なんか(もたら)してくれない。
 そうした切実な政財界事情を抱える長期調査の末に漸く「拠点を」突き止めたのなら、解らなくもないが……
 あの時点でのネアウィック村到着は、幾ら何でも早すぎる。
 イオーネ達は『暗殺者』だ。
 平時は一般民に溶け込み、動く時は闇に紛れて素性を隠す裏世界の住民。
 彼女達の実力は、襲撃場所と標的を限定しているにも関わらず今日まで捕まらなかった事実が証明する。
 例え捜査の賜物であっても、移動していた彼女達に一日分の誤差も無く追い付けるとは考え難い。

 『バーデル軍は何故、暗殺者がネアウィック村周辺に居ると思い、前触れも無く武装したまま国境を越えたのか』

 差し迫る事情があったとはいえ、領土侵犯だと訴えられても仕方ない行為を押し通すだけの確信は『何処から』得た?
 ……そんなの、決まってる。
 『暗殺者本人』だ。
 イオーネは当初、人身売買を考えていた。
 ブルーローズと同様にアルスエルナ国内の治安を乱しているであろうシャムロックを、反アルスエルナ派が多数在籍するバーデル軍へ手早く売ろうとしてたんだ。
 アルスエルナ崩壊の起爆剤となる義賊の情報は、反アルスエルナ派にとって垂涎物の餌。イオーネの交渉次第でもあるが、単純に商人殺しの犯人を捕まえるより価値は高かろう。
 最悪な事に、バーデルの上層部
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