60.第十地獄・灰燼帰界 前編
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れんばかりの灼熱が漏れ出し、溶鉱炉にアズを叩き込むように大口を開いている。
全く行動が間に合わない。いや。それどころかこの一撃は広大な地下空間であるダンジョンを貫通して大地震を引き起こすのではないかと疑いたくなるほどに、速過ぎる。回避するとかしないという問題ですらない。もはやここまでの大質量の物体が通ったとなれば、近くにある物体は衝撃波だけで粉々に砕け散る。体が避けられても空間の壁に押し潰されるのだ。
考えうる限り最も絶望的で、最悪な奇襲。
オーネストに目もくれず、まず確実に殺せう一人を確実に殺す為の一手。
必殺だ、必滅だ、回避不可避だ。
「だからこそ、それが中断される事なんて欠片も考えなかったろう?」
黒竜の目の前に、巨大な銀色の十字架がひとりでに掲げられた。
俺とて、その程度の絶望は考えていた。オーネストだってそうだろう。
切れる札が一枚なのは、なにもお前だけではないのだから。
「生ある者が逃れ得ぬ咎を背負え――『贖罪十字』」
その十字架に触れた、その瞬間。
黒竜の加速が、黒竜の火焔が、黒竜の質量が、黒竜の引き連れた衝撃波が、黒竜が破壊の意志を込めて発生させたありとあらゆる現象が、十字架に飲み込まれるように消え去った。
刹那、十字架がキキキキキキキキキキキッ!!!と耳障りな奇音を立てて振動する。
「罪は消せない。だから『贖罪十字』は存在がある限り絶対に破壊できない」
『グルルルゥッ!?』
流石というべきだろう。馬鹿な魔物なら「なんでこの十字架は壊れないのか」と困惑して動きを止めるだろうが、黒竜は瞬時にそれを『未知の存在』と認識し、リスクを避けるために瞬時に距離を取った。距離を取るついでに真正面に真空の刃と空気の壁とブレスを三つ同時にぶちまけるが、『贖罪十字』に触れた瞬間にすべては無に帰す。
破壊を吸い取っているのではない。攻撃を無効化しているというのも少し違う。
この十字架の本質とは、どれほどそれを避けようとしても、破壊しようとしても、決して叶わないという普遍的な過去を表す――そのような性質がある。だから、十字架は決して拒絶することが出来ない。
過去をなかったことにはできないのと理屈は同じなので、「現象」がなくなっているのではない。
ただ、この十字架に攻撃することは過去を殴ろうとするようなものなので、決して叶うことはない。
叶うことがないから「意味」がない。
すなわちこの十字架は、十字架を破壊しようとする事象が含む「意味」そのものを、消滅させているのではなく「なくして」いる。黒竜の攻撃は確かに十字架とその後ろにいるアズに届いたのだ。届いたが、『意味がないから何も起こらなかっ
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