60.第十地獄・灰燼帰界 前編
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敵を注視しているとはいえ背後の不信な気配に疎い筈がない。まるで、「気付かぬようにと望まれた」ように、リージュはユグーの異変に気付いていなかった。
(なんなのだ、これハ。白昼夢だとでもいうのか)
だとすれば、随分とくだらない夢だ。何の意味も見いだせない。
ふと、自分は既に死んでいるのかもしれないと思い、足元の瓦礫を蹴る。
脚が動き、瓦礫は蹴り飛ばされた。リージュはそちらを見ない。それもそうだろう、黒竜とオーネストたちの猛攻の余波が降り注ぐこの場所で瓦礫の一つが動いたから何だというのだ。だが物体に触れることは出来た。肉体と精神は繋がっている。
もう一度体を動かそうとする。
先程足が動いた時とは打って変わり、黒竜に向かおうとしたときの様に体の自由が利かなくなった。
『うえぇ……怖いよ。痛いよ。ヒッグ、怖いのも痛いのも厭だ……』
眼鏡の男とは違う、子供の声。男と反対方向に、アマゾネスの少女が立って己の目を拭っていた。
ユグーの視線に気づいたように顔を上げた可憐な少女は、泣きはらした顔を屈託のない笑みに変えた。
『だから怖いのは殺そう!痛いのは殺そう!この世に溢れるる苦しみと悲しみを生み出すモノをすべて滅ぼしちゃえば、誰も苦しまなくて生きていけるよね?全て終わるんだ、すべての苦しみが!』
『終わらんさ!!はははっはっはー!!』
また、実体のない人間がユグーの周囲に増える。ピエロのような恰好をした男の犬人だった。
『生きる苦しみとは生の実感!痛みを知ってこそ人は手を取り合える!世界が平和になったところで酒場の酔っぱらいがカッとなって殺人の罪科を犯すことは止められぬワケだからね!全てが都合よくはいかない!痛みこそ人間だ!だから化け物も人間もみんなハッピーに生きようじゃないの!!』
『されど幸福なる世界とは調和の世界。痛みを知ることも重要ですが、知る必要のない痛みもありましょうぞ。調和無くして世界はあるがままにならぬのです。癌は癌。調和を壊す強すぎる力は、他の多くの者の調和の為に尽滅せねばなりませぬ』
修道女のような恰好をしたエルフの女が、目を伏せて祈りながら異を唱える。
いや、彼女だけではない。いつの間にはユグーの周囲はあらゆる種族のあらゆる人間で埋め尽くされていた。誰もかれもが口々に、目の前の闘いをまるで他人事のように好き勝手に言葉を交わす。
『俺より強い奴なんてなぁ、要らねえんだよ!殺せ、殺しちまえ!!全員皆殺しだ!俺が法度を敷き、俺が俺の裁量で世界を廻せ!それで人類の意識は統一されんだよ!!』
『手負いの獣は弱ってから仕留めるべし。待て。待って戦いに勝利し疲弊したところを仕留めればよろしい。そして過ぎたる力となりし折は、己をも殺せばよい』
『暴力はいけません。言葉と真心
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