60.第十地獄・灰燼帰界 前編
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3つの光が空を交差するのをぼうっと見上げる。
歪なる威光。永劫の終焉。焼尽の黒焔。
己が魂を賭けるように、幾度となく光は激突し、その度に世界が悲鳴を上げた。
「黒竜――そうダ、俺は至高ノ熱戦を求めて……」
黒竜を追い詰め、灼熱の躰を拳で貫き、そして……そして、そこから先の記憶が不明瞭だった。
三大怪物の名に相応しい熾烈な猛攻を受けた気はする。
だが、その猛攻を受けても尚、俺は動ける筈だった。
そう、あそこに求めるものがある。己もまた一筋の瞬きとなってあの至高の殺意と激突すべきだ。そう理屈で思っているのに、体には反映されなかった。
精神の思うままに肉体が動かないということは、肉体の限界という奴なのだろうか。これまでの生に於いて唯の一度も経験したことがない限界というものを迎えたのならば、成程確かに動けない筈だ。そう思い、自らの体を唯一動く首を曲げて見やる。
(……………なんだ、コレは)
ゴーレムのように武骨な両腕は、アズの即席で作ったナックラーも含めて健在だった。
ただ一つ――手の甲から肩に伸びるように皮膚をのたうつ黒い筋を除いて。
実体のある物ではない。これは、入れ墨の様に皮膚の色を変色させたものだ。
爬虫類特有の鱗のような文様を描いているが、顔があると予想されるその先端は見えない。黒い筋は剣ほど太く、肩を通って腹や背中を規則的になぞり、紆余曲折してもう一つの端は反対の腕に続いていた。
『いやはや、化け物同士の闘いとはなんとも凄まじい。あそこに人間が巻き込まれようものなら、無辜の民はいとも容易く肉片に転生してしまいことだろう。恐ろしいねぇ、厭だねぇ、化け物はさ。化け物なんざ見世物小屋の檻の中で他の化け物と食い合ってくたばればいいとは思わないかね?』
「!?」
その男が自分の隣にいて、まるで友人にそうするような気さくさで声をかけてきたことに、ユグーは驚愕を隠せなかった。ユグーの思い描く世界で起きうる現象ではない。男は四角い淵の眼鏡にまるで一般人のような軽装で、強者の気迫どころか生命の気配すら感じられない。まるで全く別の場所に存在した人間の影だけがその場に投影されているかのようだった。
その後ろにはユグーと同じく黒竜との戦いに赴いたリージュが不自然なまでに静かな面持ちで空を見上げている。自分の真後ろに突然現れた男の姿も声も認識していない。目の前の敵をしかと見据えているだけだ。
お前には見えないのか、聞こえないのか――そう問おうとしたユグーの喉が、声を出さない。
再度肺を膨らませる。しかし、出ない。
自分が動いているという気配すらリージュは認識していないようだった。ユグーの見る限り、彼女は戦士として一流に近い素質を持っている。そんな人間が、
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