ブリューヌ・ジスタート転覆計画編
第14話『還らぬ者への鎮魂歌〜新たな戦乱を紡ぐ前奏曲』
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、もはや本隊の防衛線などとうに瓦解している。戦況を見て兵を動かす役目の自分は、なぜ撤退命令が出せないのか?
「すでに指揮系統が分断されています!リムアリーシャ様!これでは!!!」
そんな事は分かっている。
禿頭の騎士ルーリックが叫び、苦虫を噛みしめたような表情で指揮官代理のリムアリーシャ――リムを見やる。
「……エレン!!」
上司にして、傭兵時代からの親友を愛称で呼ぶリムの顔が歪む。ルーリックの問いに、彼女は答えることが出来なかった。激しい慟哭が彼女の意思を大きく揺さぶる。
視界の向こうでは、いまだに激しい戦闘が続いている。ディナント平原に流れたおびただしい大量の血は、以前の『ディナント平原の戦い』の比ではない。大地が、草原が、新鮮な赤い血を吸い込んでドス黒く染まっている。
鼻孔をつんざく鋭利な臭い。赤茶けた『火薬』が空気を汚染している。銀の流星軍に迫っているのは『敗北』でも『降伏』でもない。文字通り完璧な『滅亡』だけだった。
騎兵達の盾や甲冑ごと貫く鉛玉は、こちらに防御という概念を砕いていく。それはさながら飴細工のように――
石弩や弓矢とは違い、銃は密集体制を取ることで一個小隊を殲滅する。鼓膜を突き破る銃声が鳴り終わるころには、人馬の躯で埋め尽くされている。突貫力に優れ、敵の刃をも弾く騎士団が、ボロ雑巾のように戦線を崩されていく。
「……これが、ナヴァール騎士団を討ち破った……『ジュウ』というものか!?」
カルヴァドス騎士団長オーギュストの脳裏に、かの黒騎士の姿がよみがえる。
誇りも尊厳も、虫を追い払うかのような感覚で、銀の流星軍を蹴散らしていく銀の逆星軍。
「……わたしだって!まだ!」
悔いて悩んでいる間にも、『銃』によって、その将星を撃落され、多くの生命が成す術もなく奪われている。だが、その死に責任を持つべき自分は部下を率いて、この地獄絵図のような戦場から一刻も早く離れなければならない。その為に、最速距離にてジスタート領へ続くディナント平原を選んだはずだ。
しかし、自分はまだ諦めきれないでいた。エレンは必ず助けて見せる。その一心が、彼女の撤退命令を阻害させていた。
リムだけじゃない。ティグルを拉致されたマスハスとて同じ心境だった。
このまま戦闘が長引けば、いつかは敵の『飽和殲滅』に押し切られてしまう。
「……撤退を!」
襲い掛かる戦況から、リムの代わりにルーリックが声を絞り上げるように言う。しかし、部下の一人……アラムが即座に報告する。海狸のように比喩される彼は同様に余裕がなく、その表情を強張らせている。
「駄目です!『火を噴く鉄の槍』の攻撃に切れ目がありません!」
獅子王凱がこの場に居合わせていれば、鉛玉を吹く兵器の
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