暁 〜小説投稿サイト〜
魔弾の王と戦姫〜獅子と黒竜の輪廻曲〜
ブリューヌ・ジスタート転覆計画編
第14話『還らぬ者への鎮魂歌〜新たな戦乱を紡ぐ前奏曲』
[18/18]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
子王凱を――
幕営の領外へ差し掛かったあたり、凱は小さな人影をひとつ見つけた。

「誰だろう?」

自分と同じ栗色の髪を持つ少女、ティッタだった。
ふと見ると、ティッタは黙り込み、沈んだ表情を浮かべる。

「……ティッタ?」

気遣って凱が声をかけると、彼女は我に返って微笑みを浮かべようとする。だが、それは失敗した。

――凱の帰還を喜ぶべきだった――

――凱の無事を祝うべきだった――

――その為に、嬉しい涙を流すべきだった――
















――しかし、互いにそれは出来なかった――

彼女はうつむき、小さな声で言う。

「……バートランさんが……死にました……」

凱は息を呑んだ。あの時のように、頭に何かを殴られたような衝撃を感じた。
老体から闊達に笑う姿が脳裏によみがえり、凱は思わず両手を差し伸べ、ティッタを抱き寄せる。

「バートラン……さんが?」

凱とティッタはその瞳を見合わせる。気丈に笑って見せようとしたティッタだったが、堪え切れずに大きな瞳から涙をあふれさせる。
領主の信じる正義の為に――ヴォルン家に長く仕えていた侍従は、ティグルの未来を信じてその身を散らした――
ティッタは凱の胸にすがって泣きじゃくった。きっとこれまで涙をみせず、皆を不安にさせたくなくて、必死にティグルの代わりを務めようとして、気を張り詰めていたに違いない。

「……私も……ルーリックさんも……知りません……多分……ティグル様しか……どうやって死んだのかさえ」

嗚咽交じりのティッタの声が、凱をより心を締め付ける。
バートランも、名の知れていないアルサスの兵も、道半ばにして倒れた。だから、自分たちがその道を繋がなければならない。
『王道』ではない。『覇道』でもない。ただ一つの信ずる『正道』の為に――
ひそやかに泣き続けるティッタは、凱にとって『託された未来』そのものなのだろう。凱は再び抱き寄せる。
しがみ付いてでも守る。そのような意思が込められているかのように――





[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ