ブリューヌ・ジスタート転覆計画編
第14話『還らぬ者への鎮魂歌〜新たな戦乱を紡ぐ前奏曲』
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子王凱を――
幕営の領外へ差し掛かったあたり、凱は小さな人影をひとつ見つけた。
「誰だろう?」
自分と同じ栗色の髪を持つ少女、ティッタだった。
ふと見ると、ティッタは黙り込み、沈んだ表情を浮かべる。
「……ティッタ?」
気遣って凱が声をかけると、彼女は我に返って微笑みを浮かべようとする。だが、それは失敗した。
――凱の帰還を喜ぶべきだった――
――凱の無事を祝うべきだった――
――その為に、嬉しい涙を流すべきだった――
――しかし、互いにそれは出来なかった――
彼女はうつむき、小さな声で言う。
「……バートランさんが……死にました……」
凱は息を呑んだ。あの時のように、頭に何かを殴られたような衝撃を感じた。
老体から闊達に笑う姿が脳裏によみがえり、凱は思わず両手を差し伸べ、ティッタを抱き寄せる。
「バートラン……さんが?」
凱とティッタはその瞳を見合わせる。気丈に笑って見せようとしたティッタだったが、堪え切れずに大きな瞳から涙をあふれさせる。
領主の信じる正義の為に――ヴォルン家に長く仕えていた侍従は、ティグルの未来を信じてその身を散らした――
ティッタは凱の胸にすがって泣きじゃくった。きっとこれまで涙をみせず、皆を不安にさせたくなくて、必死にティグルの代わりを務めようとして、気を張り詰めていたに違いない。
「……私も……ルーリックさんも……知りません……多分……ティグル様しか……どうやって死んだのかさえ」
嗚咽交じりのティッタの声が、凱をより心を締め付ける。
バートランも、名の知れていないアルサスの兵も、道半ばにして倒れた。だから、自分たちがその道を繋がなければならない。
『王道』ではない。『覇道』でもない。ただ一つの信ずる『正道』の為に――
ひそやかに泣き続けるティッタは、凱にとって『託された未来』そのものなのだろう。凱は再び抱き寄せる。
しがみ付いてでも守る。そのような意思が込められているかのように――
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