暁 〜小説投稿サイト〜
星がこぼれる音を聞いたから
11. 紳士と淑女と親友と妖怪
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 俺の机の上にある履歴書と職歴書には、今日からこの鎮守府に来てくれる新しい美容師の経歴が、若干クセのある文字で書かれていた。前任者がいなくなってからずっと司令部に要請していた件なのだが……やっと鎮守府内美容院の後任の店長が見つかったようだ。

 ただ一点、気になる事がある。今回に決まった美容師は、自称『床屋』な点だ。履歴と職歴を見る限りは一応美容師免許と業務経験もあるみたいだから、問題はないとは思うが……。まぁ美容院だけじゃなくて床屋の仕事もやってくれるなら、俺もひげそりをしてもらえるし……いい方向に捉えようか。

 その自称床屋の実家と思われる、緊急連絡先の住所に目を通す。トノサマ洋装店店主の引越し先にかなり近い。意外と世界は狭いもんだと驚いた。

「うぃ〜……ていとくー……」
「んー?」
「今日さー……新しい美容師の人が来るんだっけー……」
「……確か隼鷹は今日はこれから哨戒任務だったよな?」
「うん……でもさ……」
「ん?」
「頭痛い……二日酔いだー……」

 そう言って俺の隣で頭を抱える隼鷹を見ながら、俺は苦笑いをすることしか出来なかった。

 俺が隼鷹にプロポーズしてからもうだいぶ経つ。あれから鎮守府も悪い意味で様変わりした。あのあとしばらくして、この鎮守府は激しい戦闘に巻き込まれ、その危機を大きな犠牲と引き換えに切り抜けた。

 あの戦闘で、あの時俺を制止してくれた古鷹と、隼鷹と俺の姉である飛鷹は轟沈した。今ではこの鎮守府のメンバーも、数えるのみとなっている。隼鷹を筆頭に、ビス子、暁と加古、川内……球磨と北上……俺がこの鎮守府に来た頃と比べると、十分の一以下の人数だ。壊滅寸前と言っていい。

 だがそんな状態でも、みんなは希望を捨てずに毎日楽しく過ごしてくれている。ココの子たちには本当に頭が下がる思いだ。

 窓の外を眺めながら、フとそんなことを考えふけっていた。時計を見ると、そろそろ哨戒任務が始まる時間だ。

「隼鷹」
「んー? なにー?」
「そろそろ哨戒任務が始まるぞ」
「んー……向かい酒とかしちゃダメかな?」
「アホ」

 『しゃーない……』と腹を決めたのか、隼鷹は頭を抱えたまま立ち上がり、その青白い顔を俺に向けた。頭を抱えるその左手の薬指には、あの日俺が通した指輪がキラキラと輝いている。

「大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫……淑女の隼鷹さんは〜……キチンと紳士の元に〜帰るのさ〜……」

 青白い顔でフラフラと左右に揺れながら、足取り怪しく執務室を出て行く隼鷹。今日隼鷹と一緒に哨戒任務につくのはビス子だったか……戻ったらビス子に謝っておこう。

「その代わり! 帰ってきたら向かい酒だぁぁあああヒャッハァアアアアア!!!」

 執務室の外の廊下から、不意にそんな声が聞
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