10. 酒と星
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うな雫がポタポタと落ちている。どうやらそれは、目の前にいる俺が惚れた女が、流しているようだった。
「他にも強い子いるだろ? その子じゃなくていいの? あたしゃ練度足りないよ?」
「強くなって欲しいから結婚するんじゃない」
「あたしゃ年中酒飲んでるよ?」
「それでもしっかり仕事してるだろ?」
「品がないよ? フランス料理よりもラーメンと餃子とビールの方が好きな女だよ?」
「サイッコーじゃんか」
体中をわなわなと震わせ、相変わらずうつむいて涙をポロポロとこぼしながら、隼鷹は俺に向かって何回も何回も、自分でいいのかと問いかけてきた。でも何度聞かれても、俺の意思は変わらない。
「ぐすっ……飛鷹のほうが……おしとやかで、お嬢様だよ?」
「……そら確かに」
「ぶっ」
「ん?」
「そこは……ぐすっ……『お前だっておしとやかだ』て言うとこでしょ提督!」
「ウソはつけない」
「ひどっ……ぐすっ……」
「……でもな隼鷹」
―― 彼女に聞かせなければならない話だ
ええ。店主……今俺は、彼女にキチンと伝えます。
「……星がこぼれる音」
「? ……ぁあそういえば、昨日あたしにそんなこと言ってたね」
「晩餐会のときからずっと……いや多分その前から、お前からは、星がこぼれる音が聞こえてた」
「……」
「俺は、お前から聞こえるその音が好きだ。横でずっと聞いていたい」
「ぷっ……なにそれ……」
隼鷹が顔を上げた。涙でくしゃくしゃになった顔は真っ赤っかだ。でも顔が赤いのは、きっとアルコールが原因ではないだろう。窓の向こう側にうつる星空と満月を背景に涙を流しながら満面の笑みで俺を見つめる隼鷹は、本当に綺麗だった。
キラキラと星がこぼれる音が耳に届く。彼女にキチンと意思表示をして欲しくて……俺みたいに、改めて意思表示しなければならないハメには、ならないように。
「隼鷹」
「ん?」
「指輪を通す前に聞いとく」
「うん」
手に持った指輪を、隼鷹の左薬指のそばまで持ってきて、一度止める。彼女の、最後の意思表示さえ聞くことが出来れば……
「隼鷹。俺と一緒に……人生を歩んでくれないか」
目を閉じ、俺の言葉の意味を繰り返し味わうように何度も軽くうなずいた後、隼鷹は涙で顔をくしゃくしゃにしながら言った。
「仕方ないなぁ……ぐすっ……隼鷹さん、あんただけの淑女に……ぐすっ……なるよ」
「……ありがとう」
「いいよ。……でもこれであんたも……あたしだけの……ぐすっ……紳士だよ?」
「おう。……隼鷹?」
「ん?」
「お前が好きだ」
「……うん。あたしも」
俺は、隼鷹の薬指に静かに指輪を通した。
静かに少しだけ、でもハッキリと、星がこぼれる音が聞こえた。
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