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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百十七話 内乱終結後(その1)
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宇宙暦 797年  4月 10日  ハイネセン 最高評議会ビル  ジョアン・レベロ


「ようやく内乱が終結したな、トリューニヒト」
「そうだな」
「次は捕虜交換か」
「そしてフェザーンだ。何とかしてあれを帝国に返さないと」

最高評議会議長の執務室。今此処には私とトリューニヒトだけがいる。こうして二人だけで会う事は久しぶりだ。トリューニヒトがどうしてもと言って時間を作った。今後の事について話をしたいと……。

二人ともソファーに座りコーヒーを飲んでいる。今、トリューニヒトほど市民の支持を得ている政治家はいないだろう。しかしトリューニヒトの表情は決して明るくない。コーヒーを飲む表情は苦味を帯びている。実際難問は山積みだ、息を抜ける状況ではない。

昨日帝国は内乱の終結を宣言した。それによって昨年の十一月末に起きてから四ヶ月半に及んだ内乱が終結した事になる。もっとも内乱は事実上一ヶ月前、ガイエスブルク要塞でブラウンシュバイク公が死んだ事で終わっていると言って良い。

実際同盟内部でもブラウンシュバイク公の死とガイエスブルク要塞の陥落後は内乱は終結したという認識が大勢を占めた。それと同時に出兵論も聞こえなくなった。一つ問題が消えたと言って良いだろう。但し、数多ある問題の一つだ

「容易なことではないぞ、向こうは受けとらんだろう。それに返すとなればこちらにも反対者が出る」
「分かっている、レベロ」

私の言葉にトリューニヒトは渋い顔をした。いつも人当たりの良い表情をしているこの男が渋い顔をしている。フェザーン進駐はトリューニヒト政権の支持率を上げた。それだけに返すのは難しい。返還を匂わせただけで支持率が下がるのは眼に見えている。理性では理解しても感情では納得しない、そして支持率はその感情に左右されがちだ。

「やるのなら捕虜交換の直後だな、一気呵成に行なうべきだろう」
私の言葉にトリューニヒトは頷いた。
「ああ、その通りだ。フェザーンのレムシャイド伯と連絡を取ろう。先ずは捕虜交換だ」
レムシャイドか、喰えぬ男だ。思わずこちらも顔を顰めた。

「フェザーン返還にはルビンスキーの身柄がいる。彼の行方はまだ分からんのか?」
私の言葉にトリューニヒトはまた渋い表情をした。いかんな、男二人さっきから顔を顰めてばかりだ。

「その事だがな、もしかすると帝国は既に彼の身柄を押さえているのかもしれない」
「どういうことだ、それは」

「帝国はルパート・ケッセルリンクという若い補佐官をオーディンに送った。その男だが……」
ルパート・ケッセルリンク? トリューニヒトは忌々しそうな顔をしている。
「その男がどうかしたのか?」

「ルビンスキーの息子らしい」
「なんだと! 本当か!」
トリューニヒトが顔を顰めた。
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