通りもの
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探した。相変わらず机に座って本を開いたまま、奉は俺を見ていた。煙色の眼鏡の奥は…やはり、見えない。
「俺は…夢、見てたのか」
「今の夢を覚えているか」
頭に手を当ててみた。…全然、思い出せない。なのに妙に生々しい憎悪の感情、というかその残滓だけがべったりと、貼りついている。
「……駄目だ」
「普段なら、夢を見ていたことすら忘れていたんじゃないかねぇ…」
「そんな……」
いや、そうなのだろう。さっき奉が云っていた。『夢を見ないのか』と。
俺は眠りが浅いのか、割と夢を見る。朝の支度で忙しくしている間に詳しい内容を忘れてしまう、他愛もない夢ばかりだが。だから夢を見なくなった自分に疑問を覚えることもなく、きっと俺は夢の中で奉に憎悪を募らせながら、毎朝その憎悪を心の奥底に貼りつけながら…ここに、通っていたのだ。
「えげつないことをし始めたねぇ、彼らは」
奉はくたりと本にもたれて、目を閉じた。
「困ったことになったねぇ…」
「俺、しばらくここに来ない方がいいかな…」
俺がこのまま浸食され続ければ、いずれ奉を。
「いや、それはかえってよくない。俺がお前の前から消えれば更に、夢と現実の境がなくなる」
夢を見ていることすら自覚できない俺は、突然奉を殺める。誰に聞いても理由は分からない。俺ですら。
「こういう『殺し方』は、夢に住まうものの十八番だねぇ。じわじわと内側から侵され、ある日突然、何の前触れもなく人を殺める。外側からはそう見える。そういう、通りすがりの魔に憑かれるような殺しを促す妖を『通りもの』などという…」
それこそが彼らの狙いだねぇ、と奉は本に顔を埋めて息を吐いた。
「…厄介だねぇ…どうしたものかねぇ…」
―――俺かお前、どちらかが死ぬ。
あの日軽く聞き流した言葉が、じわりとのしかかってきた。
洞を後にする俺に、外まで送ると、きじとらさんがついてきた。いつもは奉から離れないのに。…とは云いつつ、奉抜きで二人で歩けるのは少し嬉しい。
俺がうたた寝していた時間はそう長くはなかったようで、まだまだ日が高い。…否、最近日が延びたか。さっき汗を拭いたのに、また新たな汗が喉元を伝った。
「あの…大丈夫ですよ、汗は凄いけど、体調は」
後ろから、ひやりと冷たいものを首筋にあてられた。
「あはは、もうおしぼりは」
首筋に手を伸ばした刹那、俺は凍りついた。
刃物だ。
「奉様が、云いました。彼か、結貴さんのどちらかが死ぬと」
きじとらさんは淡々と話す。感情のブレは感じられない。ただ、淡々と話す。
「『あいつら』があの人を殺すなら、結貴さんの中に宿った今なら…」
―――あなたが死んだら、一緒に消えるのでしょうか。
汗を拭った首回りを、生暖かい風が撫でていく。喉元にあてられた刃物は相変
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