ターン61 墓場の騎士と最速の玩具
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相手だ。
「……」
息を限界まで潜めて、指一本動かさないように神経を集中させ周りの空気に溶け込む。大丈夫だ、落ち着け、ほらあの悪魔がすぐ横を通り抜けていく、もう少しだ、これでこのまま行き過ぎれば逃げ切れる……だがそこで、すぐ目の前まで来た悪魔が足を止めた。何かを探すかのように、左右に目を走らせ始めた。
「……!」
1秒1秒が何時間にも感じられるほどの沈黙の時間が過ぎ、何も見つけられなかったらしい悪魔が再び歩き出す。その姿を見送ってからさらに10分ほどその場所で留まり続け、物音ひとつ聞こえなくなったころを見計らって慎重に体を動かし始める。力の入れすぎで強張った手足をほぐし、ゆっくり息を吐き出す。
「よう」
「な、ななななな……!」
突然の声に飛び上がらんまでに驚き、ぎこちなく首を後ろに向ける。腕を組んだ状態で、僕が動き出すのをじっと待っていたらしい鬼のような例の悪魔がそこにいた。
逃げる?駄目だ、身体能力で本物に敵うわけがないのはダーク・バルターを振りきれなかったときに実証済みだ。迎え撃つ?そっちの方がまだ可能性がありそうだが、デュエルとなるとこのデッキを使うしかない。でもだからといって、このままここで捕まえられるなんて冗談じゃないし、でも、でも……と色々な思考が頭の中をぐるぐるした状態で固まっていると、悪魔の方が両腕を上に挙げて手のひらを広げて見せた。
「……あー、なんだ。ビビらせたんなら謝るが、俺はこの通り手を出すつもりはないからな。ほら、見ての通り丸腰だ」
困ったような声で言い、1歩下がって僕から距離を取る。
……あれ?よくわからないが、この悪魔は他とは違うのだろうか。仮に僕を騙そうとしているのだとしても、後ろを取られた時点で不意打ちし放題だったろうにそんなことする意味がない。命がけだから絶対選択ミスはできないのに、どうすればいいのかまるで見当もつかない。あれこれ考えていると突然あたりに小さな、しかしはっきりと聞こえる音が響き渡った。音源は僕の腹……まあ、ここ数日ろくに料理もできてなかったからね、しゃーないよね。
なんとなく気まずい空気が流れてしばらくしたところで、鬼がやれやれとため息をついてどっかりとその場に胡坐をかいて座り込んだ。懐に手を突っ込み、小包のようなものを取り出して開ける。中に入っていた子供の頭ほどもあるおにぎりを1つ掴みとり、グイッとこちらに突き出してきた。
「ほれ、食えよ。ツナ入ってんぞツナ」
「……いただきます」
だいぶ躊躇いはしたが、食欲には勝てなかった。一応割ってみると、なるほど確かに具は僕も知っているツナだ。どうせ食べるんならもう自棄だ、後は野となれ山となれ。僕もその場に座り込み、手近な木にもたれかかって手の中のおにぎりに噛り付いた。
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