第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
17話 居場所という詭弁
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ったけど、前を向いて頑張っていて、何よりも幸せそうだった。………だからかも知れないな。その人には、何としてでも生きて欲しかった」
「その人は、生きてるの?」
「ああ、生きてる。お前も会った事がある人だ」
「そう、なんだ………良かった………助けられたんだね」
良かったと、ヒヨリは言った。
その当事者ではないのに、まるで自分のことのように結果に安堵する姿は、どこまでも優しい。
「教えてくれてありがとう。………あと、ごめん。辛いこと聞いちゃったね」
言いつつ、ヒヨリは尚も震える手で頭を撫で続ける。
痛みを和らげるように優しく、何度も繰り返す。
何度も、何度も、息を詰まらせながら、何度も、何度も、嗚咽を漏らしながら、涙を零しながら。
「何でお前が泣くんだよ。変なヤツだな」
「………………だって、燐ちゃんが………苦しいから…………」
どこまでも優しい。真摯に相手を見つめるヒヨリは、どこまでも優しい。
だから、ヒヨリは時折共感する。相手の痛みを慮って、その苦しみを想って、涙を流す。
そんな事が出来るほど、ヒヨリは優しい。
だが、俺の話した出来事で涙を流すのは、ヒヨリの役目ではない。
「お前が悩むことじゃない。俺も、助けた相手も、散々苦しんで、泣いて、今では笑い合えるくらいになってるんだ。………だから、もう十分だ」
「………でも、それじゃ………」
納得できないのだろう。
あの涙には、あの場面に立ち会えなかった悔しさも含まれるのだろう。
しかし、過ぎたことを悔やむほど不毛な行為もない。俺の苦痛を想ってくれているからこそ迂闊に無礼は働けないが、こればかりはヒヨリの負うべき痛みではない。
「お前はここに居てくればいい」
「………やっぱり、私………足手纏いなの?」
「違う。帰りに出迎えてくれるだけでも気分が違うこともあるだろう。………お前にしか頼めない。ここに戻ってこれるように、帰る場所になってくれると有り難い」
グリセルダさんは、俺が《秘蝕剣》の使い方を違えれば叱ってくれると言ってくれた。
そしてヒヨリには、俺の帰る場所になってくれれば、心強い。だが、もう背中を預けるようなことはないのだろう。これはあくまでも自分の《嘘を貫き通す為の許容量》とヒヨリの《納得できるであろう位置付け》を勝手に模索しただけの妥協案なのだから。何処まで行っても、これは詭弁に過ぎない。
まだ呼吸の治まらないヒヨリの頭を撫でながら、我ながら身勝手な申し出を依頼する。
「………じゃあ、今度は隠し事しない? ………私を、頼ってくれる?」
「そうだな、辛くなったら相談くらいはする。………ありがとうな」
「…………うん、わかった。………待ってるね
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