彼の戦を伝える者達 〜小さいおじさんシリーズ14
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げて息を吹き込むと、ぶぉっふぉ〜、ぶぉっふぉ〜…と、割と本格的にホラ貝っぽい音がした。
程なく、傍らに音もなく巨躯の豪傑が現れた。
「うぉぅ、本格的に合戦って感じになったな」
感心しているのかドン引きしているのか分からないが、端正が少し居住まいを正してあとじさった。
「いいなそれ、勇壮な感じだな!俺も今度、夏候惇をホラ貝で呼ぼう」
つぶ貝だよ。
「すみませんね、つまらぬ用事で…貴方の、これがイチオシっていう三国志関連の作品てありますか?」
彼女は、小さく首を振った。豪勢と端正がつまらなそうに息をつく。
「…ま、卿の如き才女は逆に後世の創作などに興味は示さぬか…ん?」
誰か来るぞ、と呟いて端正が猫ちぐらの陰に隠れた。
「こんにちは、宅急便でーす」
クロネコヤマトの配達員が、Amazonの箱を提げて現れた。…俺は何も頼んだ覚えはないのだが、最近こういうことがよくある。あいつらは俺のカードを勝手に使って菓子やら本やらを勝手に注文するのだ。…伝票には『書籍』とある。
「おい、誰か頼んだか」
「はて、私は何も」
「俺も今日は何も」
彼らが顔を見合わせる中、何故か彼女がそわそわし始めた。
「まぁまぁ、誰か頼んで忘れているのだろう。丁度酒のつまみが少なくなったところだ。どれ、食い物は」
ひらり、と身軽に箱に飛び乗る豪勢。こういう時のこいつは誰より素早い。他の二人も、のたのたと続いた。『彼女』は、あ…あぁ…とか呟きながら段ボール箱の周囲をウロウロしている。…やがて、ぴりぴりぴり、とビニールのダンプロンが破れる音がした。
「……やや!?」
ボール紙ごとラッピングされた一冊のワイド版の単行本が、箱の底に貼りついていた。やや?と呟いた豪勢、そしてアホ面さげて段ボールを覗き込んだ白頭巾と端正の背中が同時に固まった。
『孔明のヨメ』と題された、可愛らしい女の子(多分月英)の4コマ漫画らしき単行本が、箱の底に貼りついていた。
ごくり……と、3人が息を呑む音が響いた。
「こっ…これはっ…」
「3…巻…ですか」
「2巻までは買っているんだな…卿、覚えはないか」
端正の声など耳にも入っていないかのように、白頭巾は箱の底を凝視する。
「…おい、卿がポチったんだよな…そうだよな…そうだろう!?そうだと云え!!」
声がガクガク震えている。
「…私は…何も…」
3人は恐る恐る、『彼女』の方を振り返る。彼女は…
それは果たして怒りなのか、それとも羞恥なのか。
ただ彼女は顔を紅潮させ、羅刹の如き気を纏い、彼らの背後に立ち尽くしていた。弾かれたように飛び退く3人、そして機械的に振り下ろされる戟。風塵と共に切り裂かれるビニール。彼女は剥き出しになった『孔明のヨメ3巻』
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