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戦国御伽草子
肆ノ巻
御霊

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 あはは、はは、ははっ…!



 笑い声が響いた。亦柾だ。亦柾が、おかしくて仕方が無いと行った顔で笑っている。こいつのこんな顔、はじめて見たかも。そうして笑っていると、少年のようにも見える。いつもの澄ましきった顔からは想像できないほどの純粋さでただひたすらに亦柾は笑い声を上げる。



 かなり長い間、亦柾はそうして笑っていた。いいかげんにしなさいよ、と思わずあたしが言ってしまいそうになったほどだ。しかしその直前に亦柾は自分で笑いを収め、そっと言葉を落とした。



「…やはり、似ていますよ、あなた方は。分かちがたい。しかしやはり分かたなければいけない日は来てしまうのですね。姫も覚えておくと良い。人はいつまでも、思い出の中では生きられないのだと。それがいいことなのか、わるいことなのか、なにがしあわせなのか、わたしにはわかりません。ですが姫、あなたに先に逢っていたのなら…わたしにも、違う道があったのかも知れませんね」



 亦柾は抱き閉めていたことなど嘘のようにするりとあたしから離れた。そして彼はにこりといつものように笑った。



「百もとうに過ぎた…行って下さい、姫。高彬殿が鬼の形相でこちらを見ておられる」



 あっ、やば…。



 あたしは慌てて振り返る。しかし、百を超えたら有無を言わさず連れ去ると断言していた高彬は、静かに一歩さがったところで立っていてくれた。



 ああ、もう、あんたのそういう優しいとこ、好きよ。



 あたしは高彬に駆け寄った。おまけで腕まで組んじゃう。



「有り難う高彬!」



「な…っ、瑠螺蔚さ…っ」



「姫!」



 後ろから亦柾の声が飛ぶ。あたしはあわあわ動揺している高彬の腕を離さないようがっしり掴みながら声の方を見る。



「言い忘れました。かように余裕の無い夫であれば姫も気詰まりでしょう。わたしはいつでも待っておりますからね」



 しかし言葉の内容とは裏腹に亦柾の声も目も優しかった。



 だからあたしは、盛大にイーッとあっかんべーをした。



「お断りよ!おとといきやがれ!」



 ふっ、と亦柾が笑う。あたしは背を向ける。今度は振り返らない。がんばりなさいよという激励を込めて、後ろ手にひらりと手を振った。



 ありがとうございます、姫…と聞こえた気がした。
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