肆ノ巻
御霊
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柾どの。それ以上はご遠慮仕る。先程の狼藉、わたしが許した訳では決してない」
「おや、狼藉とは心外な。あれは愛しい妹姫への愛情表現です。それでも貴殿に遠慮して差し上げたのだからむしろ感謝をして頂きたいものだが?」
「何が感謝か…!本当にあなた方兄弟にはうんざりだ!瑠螺蔚さん、もうここに用事は無いね?行こう!」
「え?待ってよ高彬!それにどうしたの?そんな怒らなくても…」
「怒らなくても、だって?これが怒らずにいられるか!」
いやまぁ、諸々考えれば当然怒っても良い内容なんですけど…。でも、亦柾にあたるのは違うような…。
「待って、本当に待って、高彬。あたし、亦柾に言いたいことがある」
あたしの声に真剣さが混じったのがわかったのか、高彬の足が止まる。それから、はぁあ〜と溜息が聞こえた。
「…僕が百数えるまで。それ以上は有無を言わさず引きずってくからね」
「ありがと。だいすき」
ギョッと高彬の目が見開かれる。あたしはくるりと亦柾に振り返った。あたし達のやりとりを面白そうに見ていた亦柾は、あたしと目が合うとひらりと手を振った。
「亦柾」
「はい。螺蔚姫」
「ひとつ!どうしてもはっきりさせておきたいことがある!悠も誤解していたみたいだけど、あんたは、あたしのこと、好きじゃ無い!」
あたしはびしりと亦柾を指さす。
…あたしのこと好きじゃ無いってこんな堂々と言うのもなんか空しい気もするけど。
しかし亦柾は、一度目を丸くしたかと思うと、さも楽しそうにころころと笑い声を上げた。
「何をおっしゃるかと思えば…。いいえ?螺蔚姫のこと、お慕いしておりますよ」
「そうね、蕾姫のことをね」
亦柾のへらへらとした雰囲気がすっ…と抜け落ちた。残ったのは、笑顔の下でこちらの出方を窺う、一郎と名付けられた重みを背負う武士の瞳。
「あんたが好きなのは、あたしじゃない」
あたしは強く言った。今度は亦柾も否定をしなかった。ただじっとあたしを見ている。だからあたしは重ねて問う。
「あんたが好きなのは、あたしじゃなくて、前田蕾−…あたしの母上ね?」
あたしが十を一つ越した時に亡くなられてしまった蕾母上。傾国の美女と呼ばれ、父上と夫婦になって尚、恋文が絶えなかったという…。
ふいに亦柾がにこりと笑った。
「だから、わたしは螺蔚姫が好きなのです」
ライ姫…あれ、この場合どっちのこと言ってるんだ?あたし?
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