第51話
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豪雨の音に紛れ、魏兵と華雄兵達が刃を交わしている中、一人の武人が魏本陣を疾走していた。
――間に合え、間におうてくれ!
彼女の名は張遼、真名を霞。
片目の損失をも厭わず敵である自分達を庇った春蘭と、それを良くやったと賞賛した華琳の器に惚れ、反董卓連合の戦い後、元主である月に許可を貰って魏軍に身を寄せていた。
その腕を買われ今回の大戦に追従。日中の戦いでは用兵術と武力を用いて岸に群がる袁陽軍を跳ね除けた。
そんな今の彼女の頭に浮かぶのは、魏将となってから新しく出来た妹分、李典の顔。
言葉の訛りが同じだからか、初対面の時から李典は自分を“姐さん”と呼び慕ってくれた。
少し前も言葉を交わしたばかりだ。
一刻ほど遡り、次戦に備え、休息をとる前に日課である矛の型を確認していた時。
自身の天幕の近くに人の気配を感じた、見張りが巡回している事を考慮すれば何の違和感も無いが、問題なのは、感じた気配が忍び足で移動していることである。
無論、張遼は矛を手に不自然な気配を追ったのだが――
『……何してんねん、真桜』
『ギャーーお許し――って あ、姐さんやないですか、驚かせんで下さい!』
忍び足の正体は妹分だった。
『驚いたのはこっちや、こんな夜更けに……ははーん、男やな?』
『だっはっは、こんなカラクリ女に惚れる男が居るなら紹介してほしいですわ』
いや、めっちゃおるで――と、妹分を見ながら思う。
可愛らしい顔立ち、明るく前向きな性格、そして何よりこの爆乳。
彼女が歩くだけで兵士達が中腰になる為、単身で敵軍に放り込む作戦が立案されたほどだ。
ちなみに立案者は薄く笑みを浮かべた華琳の手により――いや、考えるまい考えるまい。
『で、ほんまに何の用があるんや? 待機命令が出されとるやろうに、命令違反は重罪やで』
『姐さん、姐さん、同罪でっせ』
『アホ! 忍び足で動き回る誰かさんがおらんかったら、天幕から動かんかったわ』
『んな殺生な〜』
ノリで見逃して貰おうとした李典だが、真顔の姐貴分を見て諦めた。
普段は飄々としている分、真面目になった張遼の凄みは主である華琳に通じるモノがある。
『うちの子達を確認したくて』
『子てあんた……ああ、投石機のことな。そんなん軍儀前に済ませたはずやろ』
『せやかて姐さん!』
珍しく駄々をこねる妹分に張遼は驚く。彼女の知る李典は融通が効かない面もあるが、基本的には上の者に従順だ。今回の件にしても、待機命令は郭嘉を通して華琳から与えられたようなものだ。
にも関わらずここまで食い下がる辺り、相当意思は固い。
『カラクリは繊細なものなんです。こうしている間にも
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