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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語
■■???編 主人公:???■■
広がる世界◆序章
第六十八話 迷子
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に記憶を失った状態でこのわけのわからない状態に放り込まれたと考えるほうがより現実的だ。しかし記憶を操作するなどという危険な実験が日本で認可されるはずがないし、そもそも記憶は混濁させることはできても、期間を限定して失わせるなんて技術があれば彼も知っているはずだ。いや、その記憶も失われてしまっただけなのか?

 彼はどうやら根本的に頭を切り替える必要があると気づいた。彼は思った以上にわけのわからない状況下にあるようだ。現状、わかっていることがあまりにも少なすぎる。更にこの村の文明の程度からして、近隣の村へは何日かかることだか分からない。もしこの村に受け入れられなかったら、彼は餓死するしかないだろう。
「すまない、どうやら頭を打って記憶がおかしくなってるみてぇだ。気づいたらあっちの草原で倒れていて――」
「へえ、それじゃあなた『ベクタの迷子』ってやつなのね。実物は初めて見るわ」
「『ベクタの迷子』? そりゃ一体……」
「ある日突然いなくなったり、逆に突然現れたりする人のことをいうの。ベクタっていう悪い神様が、人の記憶を食べてから、遠くへ運んでいっちゃうんだって。っていっても、ずーっと昔、おばあさんが一人連れてかれたって話を聞いたことがあるだけだけれど」
「そうなのか……。すると俺もそうなのかもしれねぇな……」
 彼はため息をつくと、再び少女に向き直った。
「俺は今食料も水も無くて、おまけに記憶もないようだ。すまねぇが、食べ物とか少し分けてもらうことはできねぇだろうか」
「いいよ。わたし、シスター見習いなの。シスター・アザリアに頼んであげる」
 この世界に教会がある、ということを彼は新たに記憶に付け足した。そしてその教会が慈善事業を行っているようだ。幸い、彼の知るものと一致する。
「それは助かる。そうだ、そういえばきみの名前をまだ聞いていなかった」
「アリスよ」
 彼女は短く名前だけを名乗った。まさか、苗字が存在しないのだろうか。あるいは、苗字を名乗るのは一般的ではないのかもしれない。苗字を尋ねるべきか迷って、やっぱりやめにすることにした。代わりに彼も自分の名を名乗る。
「俺の名はミズキだ。よろしく、アリス」
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