6. くすんだ指輪
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鷹と飛鷹の音が遠ざかり、ドアの前ぐらいの位置まで移動した時だった。
「……ていとくー」
隼鷹の弱々しい声がドック内に響いた。
「隼鷹!!」
たまらず身体が振り返ろうと動くが、古鷹がそれを制止した。古鷹は俺から視線を外さないまま、静かに自分の首を横に振っている。
「ごめんねー。隼鷹さん、ちょこっと風呂入ってくるわ」
「大丈夫なのか……?」
「大丈夫。ちゃんとあんたの隣に帰るから」
「だが……ッ!!」
「あの店主も言ってたろ? 紳士は淑女を待つもんさ」
「……」
「大丈夫。あんたの淑女の隼鷹さんは、ちゃんと紳士のもとに帰ってくるよ」
「……ッ!!」
「あと古鷹……サンキュー……」
隼鷹のそのセリフを最後に、再び鳴ったズリズリという音が俺の耳に届き続け、そして『ドバン!!』というドアの音がドックに鳴り響いた。
古鷹が俺の頭から手を離した。急いでドアを見るが、もうドアは閉じられている。周囲をキョロキョロと見回すが、隼鷹の姿はない。
「提督、ちゃんと耐えてくれてありがとうございます」
古鷹は春先の日なたの匂いが漂ってきそうな温かい笑顔を俺に向けた。全身から力が抜け、俺の身体がその場にグシャリと崩れ落ちる。緊張が解け、身体が筋肉の硬直を解いたようだ。
「……ハァッ……ハァッ……古鷹」
「はい」
「ありがとう。お前が抑えてくれてなかったら、俺は絶対後ろを振り向いてた」
「いいんです」
「隼鷹は……アイツは無事なのか?」
「無事です。ただ……怪我がちょっと酷いだけで。だから大丈夫です」
「……ホントだよな?」
「はい」
その後『シャキッとするクマ』とぶつくさ文句を言う球磨に肩を借り、執務室へと戻った俺。恥ずかしい話だが、まるで歩く力がわかなかった。その場から俺は自力で動くことができなかった。
「おかえりなさい提督」
「ああ……ハァ……ハァ……」
執務室に戻ると、秘書艦の席には飛鷹が座っていた。入渠する際、隼鷹から代わりの秘書艦を頼まれたらしい。
「というわけで、今日と明日は私が代わりに秘書艦をするわね」
さっきの剣幕はどこへやら……いつも通りに戻った飛鷹はそう言いながら、目の前の書類を片付けていた。
「隼鷹は……?」
「入渠させたわ。高速修復材ももう無いから、完治するのは明日の夕方ぐらいね」
「……何か言ってたか……?」
「秘書艦の話以外は何も。入渠させたらすぐ寝ちゃったから。……ぁあそうそう」
何かを思い出したかのように飛鷹は立ち上がり、右手を自分の胸ポケットに突っ込んで何かを取り出し、その黒く汚れた何かを俺に見せてきた。
「隼鷹ね、三式弾で焼かれた時にとっさに左手をかばってたんだけど」
「……」
「これを
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