第二十九章
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「絶対にして普遍ものだ」
「その考えは変わらないわね」
「余に変節はない」
これまた決してという言葉だった。
「何があろうとも」
「そのことは立派よ、けれどね」
「それでもか」
「教義も倫理も変わるものよ」
「神の御教えもだな」
「そうよ、けれどこのことは平行線ね」
決して混ざることがない、理解し合うことがない。そうしたものであることを沙耶香はわかっていた。それでこれ以上の話を止めた。
「もうお話するのは止めておくべきかしら」
「そう言うか」
「実際にそうだから」
「そうか、では話は終わりだな」
「ええ、貴方は間もなく地の中に戻るわ」
彼が眠っていたその場所にというのだ。
「安らかに」
「そうさせてもらおう」
「本来そうあるべきだったと言えば酷でしょうが」
速水も騎士に言う。
「安らかに」
「眠れというのか」
「そうです、お休み下さい」
「そうさせてもらう、そのことには従う他ない」
敗れた、そして力が尽きようとしている。それならだった。
「二人の誇り高き異教の僕達よ、さらばだ」
「ええ、これでね」
「お休み下さい」
二人も騎士に送別の言葉を送った、その言葉を受けてだった。騎士はその身体を白い光に馬ごと包まれ消え去った。そうして後には何も残らなかった。
戦いが終わったことを見届けてからだった、速水は沙耶香に声をかけた。
「これで終わりですが」
「それでもというのね」
「何か考えさせられもしましたね」
「正義のことね」
「私は正義やそうしたことに関心がありません」
「私もよ」
沙耶香もこう速水に返した。
「正義は普遍ではないから」
「その人それぞれの正義があります」
「そうよ、何が正しいかはね」
「その人それぞれです」
「そうしたものね」
「そうした考えですから」
だからだというのだ。
「正義には興味がありません」
「そこは私も同じよ」
「好き嫌いはありますが」
速水自身のそれがだ。
「そして美学が」
「貴方のそれが」
「貴女と同じです」
左の前髪はまた垂れて左目を隠している、速水は残っている右目で沙耶香を見つつそのうえで話をした。
「美学に従っています」
「貴方の美学に」
「そうです、そしてその美学の頂点にいるのが」
「私というのね」
「そうなりますが」
「生憎私の今の美学には貴方はいないわ」
沙耶香は微笑み速水に答えた。
「だから生憎だけれど」
「今もというですね」
「去らせてもらうわ」
「やれやれですね、ですが」
「またというのね」
「お誘いします」
「ではその時に私の美学に貴方がいれば」
若しそうならとだ、沙耶香は微笑み速水に述べた。
「乗るわ」
「そうですか、では」
「その時はね」
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