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星がこぼれる音を聞いたから
4. フランス料理とラーメンと餃子とビール
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いた隼鷹は、しれっとそんな風に答えていた。

「夫婦……」

 隼鷹のこの言葉が、俺の心を再びコンコンとノックしていた。

「ん? どうしました?」

 TPOを考えてだろうか……隼鷹はいつもの調子でなく、姉の飛鷹をもっと丁寧にしたような口ぶりで俺に話しかけてくる。

「……いや」
「?」
「将校どの……このシャーベット、絶品でありますなぁ」
「うん。うまいな」

 向かいの席に座っている柏原司令官とあきつ丸さんの2人もおれの緊張をなごませてくれた。隼鷹と陸軍の2人……2人はそんなつもりはないだろうけど……3人のおかげで、俺は初めての晩餐会を大した失敗もなく、無事に終了することが出来た。

「ありがとう。お二人がいてくれて助かりました」

 帰り際、柏原司令官に呼び止められ、そう言われた。

「こちらこそ。お二人のおかげでリラックス出来ました」
「それはよかった。お役に立てて、何よりです」

 柏原司令官には失礼と思いながらも、つい隼鷹の姿を目で追ってしまう。隼鷹は今、あきつ丸さんと談笑をしているようだった。

「……あきつ丸に代わりお礼を言います」
「はい? 俺たち、何かしましたか?」

 隼鷹を見る俺に対し、同じくあきつ丸さんを眺めながら柏原司令官がそんなおかしなことを言う。別に俺たち、何かしてあげた覚えなんてないが……

「……失礼を承知で。あなたはこういう場でのマナーを熟知しておられないようだ」

 一瞬、嫌な鼓動が心臓を駆け巡った。けれど彼の口ぶりや声色からは、俺を嘲笑おうという魂胆は感じられない。むしろ、その声の奥底には精一杯の優しさと気遣いが込められたような……そんな穏やかな声だった。

「お気づきだと思いますが、私のあきつ丸もあなたと同じく、マナーは熟知しておりません。私もフォローはしていましたが……本人は不安で仕方なかったはずです」

 あきつ丸さんの気持ちはわかる。俺だって隣に隼鷹がいなかったら……テーブルマナーなんか何も分からずに右往左往して、この場を楽しむ余裕なんてなかっただろう。

「でも同じくテーブルマナーがよく分からないあなたを見て、緊張と不安が多少ほぐれたようです。……おまけに、あなたへの隼鷹さんのフォローが完璧だった。そのフォローが、あきつ丸にもいい手本になったようです」
「そうなんですか?」
「おかげで私のあきつ丸もリラックスしてこの場を楽しむことが出来たようです。本当にありがとう。彼女にとって今日はいい思い出になったことでしょう」

 そう言いながら、あきつ丸さんを見る柏原司令官の目を見た。……きっと彼の耳には、あきつ丸さんから聞こえる星がこぼれる音が届いている……そんな気がする、優しい眼差しをしていた。

「……早く終わらせたいで
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