第四章
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そして最後の日にだった、彼は共に処刑される穴井に対して同部屋にいることもあり向かい合って座って穏やかな顔で話をした。いよいよこれから処刑場に連れて行かれる直前にだ。
「穴井君、準備は出来ていますね」
「はい」
穴井もだ、涼やかな顔で前田に答えた。
「既に全て」
「左の胸ポケットの上に白布で丸く縫い付けましたね」
「これから着る服に」
「そうされましたか」
「昨日の明るいうちに付けておきました」
穴井は微笑んでまた前田に答えた。
「そうしました」
「その白い丸のところに心臓があります」
「はい、そうですね」
「今日これから刑場に連れて行かれますが」
「夜が明けたばかりです」
その時の刑場はとだ、前田はまだ暗い窓の外を見て言った。
「それではです」
「目標を着けておかないと銃殺の弾が当たり損なってしまうかも知れません」
「そうなれば」
「永く苦しみますので」
「大尉殿に言われた通りしました」
「それは何よりです、そしてです」
前田は穴井にさらに話した。
「毛布を持って行きましょう」
「それもですね」
「死んだら亡骸をそれに包んでもらいましょう」
持って行った毛布にというのだ。
「そうでないと死んだ私達の顔に砂や石が直接当たります」
「そう考えますと」
「ちょっと嫌な気持ちになりますね」
「まことに」
「ですから。死んでからどうでもいいようことですが」
それでもというのだ。
「折角毛布がありますので忘れずに持って行きましょう」
「それでは」
「これから」
二人は死ぬ服に着替えてだった、毛布を持って。
そのうえで刑場に向かう自動車に乗り込んだ、そのうえで。
二人は行った通りの手順と態度を全て行った、怯えることも臆することも震えることもなく。
大きな声で歌い二人で少し話をして顔を見合わせて笑ってだ、銃弾を受けた。
昭和二十三年九月九日、午前五時四十五分であった。前田は穴井と共に靖国に旅立った。前田は三十一歳、穴井は三十歳の若さであった。
二人の最期を見届けてだった、オランダ軍の者達は言葉を失った、そして以後日本軍の捕虜達を虐待することはなくなった。
「前田大尉殿と穴井兵長のお陰だ」
「お二人の立派さが我々を救ってくれた」
「このことを忘れてたまるか」
「お二人のこと、祖国にも伝えよう」
残された者達は誰もが誓い残りの収容所生活を耐え切った、そのうえで日本に帰り二人のことを伝えた。
この話はティモール島、ゼブ島の者達の間にも伝わり誰もが二人の最期に涙した、そして二人のことを忘れなかった。
国のため棄つる命は惜しまねど 心に祈るはらからの幸
身はたとえ南の島に果つるとも 留め置かまし大和魂
前田は辞世の句としてこの二つを残し
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