第三章
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「一本の煙草も分けて吸い合い助け合い励まし合ってきました、私は明日穴井秀夫兵長と共に靖国に向かいます」
「はい」
その穴井が笑顔で応えた。
「大尉殿、お供させて頂きます」
「宜しくお願いします」
前田もこう言葉を返す。
そのうえでだ、再び同胞達に話した。
「最後の希望として我々の中でも一人でも無事なら」
「その時はですね」
「その一人が」
「祖国にいる同胞達に我々の最後の状況を伝えて欲しいです」
「それがですね」
「大尉殿の最後のお願いですね」
「宜しくお願いします」
頭を下げて言った。
「自動車から降りて刑場に着いたなら」
「その時は、ですか」
「大尉殿は」
「裁判長並びに立会者に微笑んで挙手の敬礼をし」
そしてというのだ。
「最後の遺留品として眼鏡を渡し」
「その眼鏡を」
「大尉殿がかけられている」
「はい、そして」
そのうえでというのだ。
「日の本の方を向いて脱帽し最敬礼をして「
「国歌を歌われ」
「天皇、皇后両陛下に万歳三唱」
「それもされます」
「もう一つあります」
前田はさらに話した。
「合唱し海ゆかばの上の句を唱え下の句を奉唱してです」
「それで、ですか」
「終わりとされますか」
「はい、銃声でさようならとしたいです」
ここまで何の淀みもなくだ、前田は話した。
「私の様な凡人に死を直前にして歌えるか、これが最後の難しい問題ですが」
「いえ、そこまでのお心があればです」
「必ず出来ます」
「大尉殿、是非です」
「立派なお最期を」
「そうしてきます、最後の最後まで気を確かに持ちます」
前田はここで敬礼をし他の者達も応えた、そのうえで処刑の前の日を終えた。遺留品として彼は糸と針、古新聞、それに本とマッチを残した。
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