第二章
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「ああした奴が一番腹が立つ」
「何もかも持っているとな」
「現地の者達にも慕われているしだ」
「こいつはまず死刑だ」
「他の目につく奴もだがこいつは第一だ」
「地獄に送ってやる」
「殺してやるから楽しみにしていろ」
勝った方にいる特権を躊躇なく行使してだった、彼等は前田を最初から死刑にするつもりだった。罪状も証拠もでっちあげてだ。
そして前田は彼等の思い通り死刑を言い渡された、それを聞いた彼が赴任していたこのティモール島そしてゼブ島の者達は急いでだった。
オランダに対して前田の助命嘆願を行った、それは彼等にしてみればそうせずにはいられないことであった。
「前田大尉は死刑になる様なことはしていないぞ!」
「そうだ、あんな素晴らしい人が何故死刑になる!」
「あの人は特に我々によくしてくれたんだぞ」
「あれだけ素晴らしい人はいない!」
「前田大尉は裁判で言われたことは全くしていない!」
「その裁判はでっちあげだ!」
「前田大尉は無実だ!」
必死にだ、前田の助命嘆願を行った。しかし元々苛烈な植民地統治を敷いていたオランダが聞く筈もなく。
前田の処刑は粛々として行われることになった、だが当の前田は死刑判決を受けて残された日々を過ごしていても全く臆してはいなかった。
彼もまた粛々として日々を過ごしていた、そのうえで死刑を待つ間彼がやるべきだと考えていることを進めていった。
弟に遺書を書いた。そこには自分を育ててくれた両親への感謝とそれに報いることが出来ない無念さがあった。
そして。
死の前日にだ、他の死刑囚達に対して言った。
「私の希望として検事に申し出たのですが」
「はい、それは」
「何でしょうか」
同胞達も彼の言葉を聞いた。
「それは一体」
「お聞かせ頂けますか」
「では」
前田は話した、それは。
「一つ、目隠しをせず」
「死刑の時は」
「そうして欲しいと」
「はい、手を縛らず国家を歌い陛下への万歳三唱と」
まずは三つだった。
「武士の髪に香りを炊き込んだことに習い香水を一瓶頂き故郷にいる弟達に遺書、遺髪を送ってくれる様にお願いしました」
「そうですか、その様なことをですか」
「大尉殿はお願いされたのですか」
「有り難いことに全て認められました」
これ等の申し出をというのだ。
「有り難く」
「では、ですね」
「その五つを果たしそのうえで」
「大尉殿は靖国に行かれますか」
「先に」
「待っています」
微笑みさえ浮かべてだ、前田は同胞達に答えた。
「これまで何かと激励して下さり有り難うございます、そして遺書の清書をしていて返事が遅れて申し訳ありません」
「いえ、その様な」
「そこまでのお気遣いは」
「いえ、我々はこれまで兄弟以上の間柄でした」
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