第六章
[8]前話
「思った通りになったな」
「ええ、あなたのね」
カロリーヌもこう返す。
「まさにそうなったわね」
「新教徒だけじゃなくな」
「ユダヤ教の同胞の人達も」
「殺されたな」
「関係ない人達まで」
「ああした状況になるとな」
それこそというのだ。
「もう誰彼なくだ」
「殺されるのね」
「巻き添えを受けてな」
「だからなのね」
「そうなる前にだ」
まさにだ、それを察したからだというのだ。
「逃げたんだ」
「そういうことね」
「そしてだ」
「それが上手くいったのね」
「よかった」
ミシェルは心から言った。
「巻き添えに遭わなくてな」
「そうなる前に逃げられて」
「とにかくよかった」
こう言って止まなかった。
「何はともあれな」
「そうね、異教徒同士の殺し合いに巻き込まれて死ぬなんて」
カロリーネも言うのだった。
「馬鹿な話ね」
「全くだ、多分これからもフランスでは馬鹿な殺し合いが続く」
パリでのことだけでなく、というのだ。
「それに巻き込まれるなんて真っ平な話だ」
「その通りね」
「じゃあ商売の再会だ」
ミシェルは妻にあらためて言った。
「売ってそして儲けるか」
「ええ、お店のものをね」
その商品達をだ、こう話してだった。
夫婦は商売をはじめた、パリでの陰惨な話を遠くで聞きながら。
サン=バルテルミーの虐殺は歴史に名高い、当時のフランス王室であったヴァロワ家が最初に粛清の指示を出したがそれを旧教の過激派の領袖であるギーズ公が拡大させ虐殺に拡大させ挙句はそれまでも行われていた内戦をさらに激化させたという。その時に新教徒達だけでなく旧教徒も殺されたしユダヤ教徒や関係ない者達まで殺されていた。新旧の両教徒達だけでなく信仰とは直接関係のない多くの者が巻き添えになったことも歴史にある、この宝石商の一家は幸いにして助かった。危険を事前に察することが出来た為に。このことは彼等にとって幸いであったと思いここに書き残しておくことにした。惨劇の中の一舞台として。
巻き添え 完
2016・6・14
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