第三章
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「若し宜しければこれからも」
「この山で」
「会って頂けますか」
「私でよければ」
これがエコーの返事だった。
「そうさせて頂きます」
「それではまた」
「これからも」
二人で約束をした、そして。
二人は実際に次の日もその次の日も会った、そのうえで山のあちこちを一緒に見て回り頂上には毎日行った。
だがある日のことだ、エコーは。
山に来なかった。いつも待ち合わせをしている麓にいなかった。ナルキッソスはこのことを残念に思った。
「どうしたのだろう」
色々考えたが不吉な考えにもなり沈んでしまった、この日彼は沈んだまま羊達の世話をして。
その次の日も来なかった、また次の日も。ナルキッソスは沈んだまま日々を過ごすしかなかったが毎日麓まで行った。
エコーが来なくなって一月程経った、すると。
麓に中年の男がいてだ、今日もそこに来たナルキッソスに言ってきた。
「君がナルキッソスか」
「はい、そうですが」
「そうか、君がか」
男は丁寧な物腰だった、皺のある疲れきった顔であった。髪の毛は黒く太い一直線のものだが鼻の形や顔の輪郭はエコーのものだった。
「娘の」
「といいますと」
「わしはエコーの父だ」
男は自ら言った。
「そして君のことは娘から聞いていた」
「そうですか」
「確かに奇麗だ、そして心根もよさそうだ」
ナルキッソスを悲しい目で見つつ言った。
「エコーが言うだけはある、だが」
「だが?」
「娘はもうここには来ない」
ナルキッソスに告げた。
「いや、来られなくなった」
「といいますと」
「娘は死んだ」
これ以上はないまでに悲しい目であった。
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