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蒼き夢の果てに
第7章 聖戦
第156話 御使い
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らくソレは、これから何か起きる事の予告。
 多分、これから行う契約の儀の箔付けに関わる事なのでしょう。

 流石に抱き上げてからくちづけを行うのでは、契約の際に行うくちづけとしては不似合。そうかと言って、その差四十センチと言うのは、タバサの側が少し背伸びをしたぐらいでは埋められない身長差。
 結局、他者からの見た目を考えると、多少不恰好……まるで大人と子供が挨拶を交わす際の様子に見えたとしても仕方がない。そう考え、俺の側が大きく腰を折り曲げる事で身長差を埋め――

 瞳を閉じた瞬間、強くなる彼女の香りと気配。そして微かに触れ合う程度の――
 しかし!

 走る激痛。苦痛に声を上げなかっただけでも大したモノだと言えるほどの激痛に、しかし、自然と膝を付いて仕舞う俺。
 反射的に覆った左手が温く、多少の粘性を帯びた液体で濡らされて行く。
 そう、最早何度目になるのか分からないぐらいに繰り返された彼女らと契約を交わす度に起きる霊的な現象。視界の半分が完全に朱に染まる状態。
 この霊障……と言うか、オーディンの伝承を(なぞら)えたオッド・アイの再現。
 ただ――

 ただ、今回の契約の儀式は見せかけだけのはず。俺とタバサの間では、既に使い魔や血の伴侶に類する契約はすべて交わされて居て、今更新しい霊的な繋がりを構築しなければならない理由はない。
 左目を覆った手を伝って落ちて行く紅い音。ひたり、ひたりと大理石の床に滴り落ちる水滴の音が耳にまで届く。
 嗅ぎ慣れて仕舞ったさびた鉄の臭い。心臓が鼓動を刻む度にズキン、ズキンと響く痛み。
 生命の源が徐々に失われて行く状態。ただ、現状はあまり得意としている訳ではない治癒魔法を自ら使用する……と言う選択肢はない。確かに異様な事態なのだが――
 一般人が失血死するのは大体二リットルの血を失った時。いくら仙人や龍種である俺でもその範疇から大きく逸脱してはいないと思うので、この状態が長く続くのは流石にマズイのだが。

 刹那、懐かしい……何故か、幼い頃の思い出を喚起させる香りが俺を包み込んだ。しかし、それだけ。治癒の術式を組み上げる訳でもなく、ドクドクと流れ出し続ける紅い液体を止めようとする気配もない。
 優しくただ抱き留めるだけ。白い衣に紅い色を付けるだけに留め――

「もう少し我慢をして欲しい」

 耳元で囁かれる日本語。本来の彼女の声はもっと丸みを帯びた優しい女性らしい声であったはずなに、何故か今回の生では無機質な声。
 育った環境やその他の要因によって同じ魂、同じ遺伝子を持つ人間でもこれほど違いが現われる物なのか。

 ざわざわとした雰囲気なのだが、何故か大きな声を上げる者もいない異常な状態。集まった貴族たちの中には女性も多く見受けられたと思うのだが、それでも悲鳴を
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