聖夜に祝福を
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に凭れかかる姿が視界に入った。見慣れた制服ではなく、タートルネックによれたトレンチコート、スキニーパンツという完全に私服のいで立ち。二人と同じ、群青色の髪。
「兄さん?」
「!ティア?……ティア―――――!」
「うぎゅっ」
手持ち無沙汰そうに髪をくるくると弄りまわしていた指が、妹の声でぴたりと止まる。ぱっとこちらを見た兄は一瞬で破顔して、勢いのまま久しぶりに会う妹をぎゅっと抱きしめた。腕の中で妹が呻いたが意識を回す余裕はない。わしゃわしゃと頭を撫で回すと、「髪が乱れるんだけど」とくぐもった声がする。
「全く…兄さん、気持ちは解るが道端で抱きしめる事はないだろう」
「何だろう。それをクロスに言われると、お前が言うなって言いたくなる」
仕方ない兄さんだな、とでも言うように肩を竦めるクロスだが、数十分前の自分もこんな感じである。
「ていうか兄さん、何しに来たの?ギルドにならこれから顔出すけど」
「何しにって…なあ。オレ、お前等の兄貴だぞ?用なんて一つだし、これを他の奴に先越される訳にはいかんのですよ……と、ほれっ」
腕から解放した妹の言葉に、兄は困ったように笑った。ちらりと弟に目を向けるが、こっちはこっちで首を傾げている。
だから、クロノは行動で示す事にした。右腕でクロスを、左腕でティアを抱え込む。
「うわっ」
「え、ちょっ」
驚いたような弟妹の声。それがどうにも面白くて、ぷっと吹き出す。
困ったような笑みを心底嬉しそうな、楽しそうな笑顔に変えて、クロノは一年で一度の言葉を大好きで大切な二人へと贈った。
誰より早く、一番乗りに。
「誕生日おめでとう。オレの妹と弟として生まれてきてくれてありがとう!大好きだぞ!」
その言葉に、二人は揃って目を見開いて。
嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに笑う兄を見て。
「――――ああ、ありがとう。兄さん」
「大好き、はナギさんに言ってあげなさいよ。……まあ、ありがと」
クロスは嬉しそうに、ティアは少し照れたように、そう返した。
「誕生日おめでとう、姉さん」
「ええ、クロスも。誕生日、おめでとう」
『おめでとう。ティアちゃん、クロス君。聞こえないだろうけど、おめでとう!』
どこかで、お日様のような誰かが笑った、気がした。
「ああ、おめでとう―――君が生まれた今日に、最高の祝福を」
どこかで、姿の知れない誰かがひっそりと笑った事には、誰も気づかないままで。
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