聖夜に祝福を
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切るとか、お前なんてもう弟じゃないとか、そういう事じゃなくて?もう視界に入るなとか…」
「むしろ逆だ。…こほん」
んんっ、と声の調子を整える。
次に口を開いた時、発したのは少女のような高い声だった。
「“クロスを呼んできて。いい?クロスだけよ。それ以外は、兄さんだろうとダメ。私はクロスに話があるの。…もしも、会いたくないって言われたら、それ以上何も言わずに帰って来て。で、隠さず私に伝えて。パシリみたいで悪いけど、私がギルドに顔出したらいろいろ面倒そうだし…頼んでいいかしら”と……んんっ…あれ、クロスは…」
「呼んできて、辺りでもう走っていったよ?」
声を戻しながら周囲を見回すが、既に彼に姿はなく。
彼がいた席には濡れたタオルがきちんとたたまれて置かれているだけだった。
クロスは走った。そりゃあもう走った。所有者の速度を上げる音速の剣を手にしてまで全力で走った。今からギルドに行くところらしいルーに頼み込んで大空俊足をかけてもらってからは更に加速して走った。すれ違った街の人に「青い風が吹いた」と後に語られるほどの速さで走り続けた。
魔法でブーストを受けているとはいえ休みなく走り続け横腹が痛み始める頃、見慣れた白い壁の一軒家が視界に入る。反射的に剣を仕舞って速度を緩め、大空俊足が解けかかるのを感じながら、ゆっくりとブレーキをかけていく。急に止まるのは体に悪いからと徐々に速度を落としながら止まれば、思っていたより息は整っていた。汗も然程かいていない。
(髪、よし。顔色、よし。服装、よし。手土産……がない!買ってくるべきだった!…いや、姉さんを待たせる方が失礼だし、今回は仕方ないとしよう。ギルドに行けば姉さんの誕生日兼クリスマスで食べるものは沢山あるだろうし)
鞄から取り出した鏡に映る自分を見つめ、あれこれと弄ってから、一つ深く深呼吸をする。そっと鏡を鞄の内ポケットに戻してから、意を決してドアをノックした。
こん、こん、と間を空けて響いたノック音。暫くして「はーい」と声がする。たったそれだけで、クロスは自分の顔が緩むのを感じた。
(姉さんの、声だ。姉さんの、姉さんだけの、俺の世界で一番大好きな、あの声だ……!)
もうこれだけでひと月分の空白を埋められそうだが、勝手に満足してしまうのは頂けない。こちらは姉に招待されている立場なのだ。
「俺だよ、姉さん。ヴィーテルシアに聞いて来たんだ。…入れて、貰えるかな」
「…クロス?来て、くれたの?」
驚いたような姉の声。投げかけられたそれに、愚問とさえ思ってしまう。
「姉さんに呼ばれて、俺が来ない訳ないだろう?手土産は、その…うっかり、忘れてしまったんだが……」
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