第十九章
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「あの人が生きていた時代で罪とされることは」
「そうね、では天国に行ってもらうわ」
「そうしますか」
「今夜ね」
不敵な笑みを浮かべてだ、沙耶香は言った。
「そうなってもらうわ」
「それでは」
「明日のこの時間にまた二人で来るわ」
「依頼が終わったと、ですか」
「伝えにね」
まさにというのだ。
「何かあればまた連絡してくれればいいわ」
「左様ですか」
「魔術師は依頼された仕事は絶対にやり遂げるのよ」
「占い師もです」
速水もこう市長に話した。
「嘘は言いません」
「だから今夜にね」
「騎士をですか」
「倒すわ」
このことをだ、沙耶香はまた言った・
「見せてあげるわ」
「それでは」
「ええ、また明日ね」
「吉報を待っています」
こう言ってだった、市長は沙耶香と速水にもう一杯コーヒーを出した。それは生クリームを乗せたウィンナーコーヒーだった。
そのコーヒーを飲んで市庁舎を後にしてからだ、速水は沙耶香にまだ寒いベルリンの街を共に歩きつつ言った。
「コーヒーは伊達ではありませんね」
「コーヒーの国だけあってね」
「見事な味ですね」
「ええ、美味しかったわ」
「フリードリヒ大王も愛した」
それこそ一日にバケツ一杯分と言われるだけ飲んでいたという、食生活を楽しんでいた王だったがコーヒーはとりわけだった様だ。
「その味ですね」
「そうね、目も覚めたわ」
「では夜までどうされますか」
「戦場になりそうな場所を散策しようかしら」
「そうされますか」
「若しくは」
ここでだ、沙耶香は。
いつもの妖艶な笑みを浮かべてだ、速水に言った。
「楽しもうかしら」
「いつも通りですね」
「そうしようかしら」
「やれやれですね、私はどうしたものか」
「何なら一緒にというのね」
「そう願いたいですが」
沙耶香の横顔、アジア的な美貌を讃えた面長で切れ長の黒い目を持つ顔を見つつ言った。
「それは、ですね」
「気分じゃないわ」
「それもいつも通りですね」
「気が向けばよ」
「そう言ってどれだけになるのか」
「気が向くのは何時かわからないわ」
沙耶香自身でもというのだ。
「それはね」
「どうしてもですね」
「そうよ、今は女の子にするわ」
「そうですか」
「ではね」
「それでは私は少し街を歩いて」
ベルリンの石造りの、彫刻を思わせる堅固かつ古風な美しさを讃えた街並みを見つつ言った。丁度二人はクロステル通り、森鴎外の舞姫にも出たその道を歩いている。とはいっても鴎外が見た通りとイ今の通りは全く違っている。車は多く髭を生やした軍人もおらず馬もいない。髭を生やしたユダヤ人の老人の姿も見えない。
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