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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百十二話 決戦、ガイエスブルク(その2)
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ち込ませない、敵の狙いはそんなところだ。分かってはいたがやはり厄介だ。

スクリーンでは味方が敵を押しているのがはっきりと分かる。俺の艦隊もかなりの勢いで敵を攻めている。元々分艦隊司令官にはトゥルナイゼンやクナップシュタイン、グリルパルツァー等有能な指揮官が揃っている。このくらいはやるだろう。

彼らは原作では評価されながらも精彩を欠く存在だ。だが元々実力は有る、若手のホープなのだ。今はそれに相応しい働きをしている。これからも変に野心を持たずに武勲を重ねてくれれば次代を背負う人間になるだろう。

トゥルナイゼン、クナップシュタイン、グリルパルツァー、分かっているか? キフォイザー星域の会戦前に俺が言った事を。英雄になどなろうとするな、なろうとしたときから自分が自分ではなくなる、自分を見失うのだ。

自分を見失った奴に周りが見えるはずが無い。つまり自分も周囲も見えない奴になる。そんな奴に待っているのは破滅だけだ。お前達は原作では破滅した。この世界では破滅するなよ……。



帝国暦 488年  3月 3日   19:00   帝国軍総旗艦 ロキ クラウス・ワルトハイム


戦況は必ずしも良くない。味方は敵を押しているのだがそれ以上ではない。突破したわけではないし、混戦状態に持ち込んでガイエスハーケンを封じたわけでもない。敵は徐々に後退しこちらをガイエスハーケンの射程内に誘い込もうとしている。

しぶとい、実にしぶとい。俺達は四時間近く戦っている。敵は後退はしているが混乱はしていない。貴族連合軍が此処まで整然と戦うとは思っていなかった。

周囲から敵の奮戦に感嘆の声が上がる中、ヴァレンシュタイン司令長官は沈黙を保ったまま戦況を見ている。時折ココアを飲むが表情は変わらない、一体何を考えているのか、知りたいものだ。

「参謀長、あとどれくらいでガイエスハーケンの射程内に入ります?」
司令長官が視線を戦術コンピュータのモニターに向けたまま問いかけてきた。

「このままでいけば、敵が射程内に入るのが約一時間後、味方が入るのはさらに一時間ほど後の事と思います」
俺の言葉にシューマッハ准将が頷いた。大丈夫だ、間違ってはいない。
「あと二時間ですか、これからが本当の戦ですね」

俺の返答に司令長官は微かに頷いて笑みを見せた。“本当の戦”、司令長官のその言葉に艦橋の空気が緊張した。皆が緊張する中、司令長官だけが穏やかな表情でスクリーンを見ていた。


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