精神の奥底
63 怪物の品格 〜後編〜
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っていた。だがそれも長くは続かなかった」
「長期間の虐待と暴行であなたの脳内はバランスを崩していた。強靭な肉体と精神を手に入れたものの永くは生きられない身体になっていた」
「そこで君と出会った。後は知っての通りだ」
「あの時、安食ちゃんは14歳だったかな?客や対戦相手からは『バケモノ』って言われて恐れられていた」
極限状態が知らず知らずのうちに、自分の人格を捻じ曲げ、本来の自分はどんな人間だったかも安食自身にはもう分からない。
家族と居場所、そして人との繋がりの対価に得られたものは、『怪物』とも表現されるような超人的な精神力と世界に対する膨大な憎しみ、そして痛めつけられ、鍛え上げられた肉体だけだった。
「施設を飛び出してから人と関わる度に薄っすらと、そこはかとない怒りが湧き上がっていた。それは地下格闘技を出てからようやくはっきりと自覚した」
「ようやく分かった。あなたがValkyrieに入った理由」
「当たるかな?」
「あなたは憎かった。そして寂しかった。誰も彼もが自分たちは清く正しい人間だって顔して歩いているのが。誰かが困っていたら助ける。相手のことは本当はどうでもいいくせに、自分がいい人だって思いたいから。人の本性は醜いものだって見せつけてやりたかった」
「……」
「人は自分がピンチに陥れば平気で他人のことを切り捨て、傷つけられる生き物だって。自分がおかしいんじゃない。そんな偽善者の仮面をかぶっている連中こそおかしいんだってね」
「まぁ、それで正解ってことにしておこう」
「でも、当然のことだと思う。私は安食ちゃんの考えを間違ってるとは思わないな。私だってきっとそう思う」
「フッ…君は良い奴なんだか、嫌な奴なんだか…」
「お互い様」
安食はこんな会話の中で不意に彩斗のことを思い出した。
彩斗のことをここまで危険視するのは、何処か自分と似ていると感じていているからだ。
最初にあの廃工場で出会ったときのことは鮮明に覚えている。
大量の死体の中で唯一人立っている少年、まるで昔の自分を見ているかのようだった。
目を疑い、時間が巻き戻ったのではないかと一瞬時計を見た。
そのせいか不思議とただ倒すだけの相手のはずなのに、必要以上の情報まで部下に調査を命じていた。
「そういえばさ、あのスターダストの正体ってお姉ちゃんのカレシ?」
「気づいていたのか?」
「うん。あなたが教えてくれなかったから、多分、教えても私が信じないような奇想天外な相手だってことだと思ったの。で、私が何であんなにボッコボコにされたのかなって考えてみたら…」
「数日前、美緒は奴と接触し、殴られたらしい。それくらい君のママは彼に恨まれていたわけだが」
「私がママの身体で看病もせずに、Valkyrieに加担してるようじゃあの怒りよう
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