巻ノ六十六 暗転のはじまりその十
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「夜を共にしていましても」
「うむ、どうもな」
妻には今一つ浮かない感じの顔で返した。
「跡継ぎがな」
「出来ませんね」
「そうじゃな」
難しい顔で応えるばかりだった、このことについては。
「子は授かりものというが」
「欲しくて得られるものではないですね」
「そうしたものじゃな」
このことを実感している言葉だった。
「毎夜共にいてもな」
「そう出来る様になりましたが」
都に入ってからだ、幸村は戦もなく妻と共に過ごせる時を多く得られる様になった。だがそれでもなのだ。
「ですが」
「子は中々な」
「そうですね」
「しかしじゃ」
幸村は隣に座る妻に袖の中で腕を組みつつ言った。
「諦めることなくな」
「これからもですね」
「共にいよう」
夜はというのだ。
「そうしよう」
「それしかないですね」
「諦めては終わりじゃ」
これがこのことについての幸村の考えだった。
「やはりな」
「はい、そうですね」
「諦めて何もしないとな」
それはというのだ。
「どうにもならぬことじゃ」
「諦めずそして進めるしかない」
「そして神仏が授けてくれるもの」
「そういうものだからこそ」
「これからも共にいよう」
妻に再び言った。
「そうしようぞ」
「では今宵も」
「共にな」
こう二人で話してこの夜も共にいた、幸村も子を授かりたいと思う様になっていた、元服したばかりの頃とは違っていた。
幸村も子が出来ることを願っていた、だが。
朝になりだ、妻にこんなことを言ったのだった。
「我等は大名になったがだ」
「それでもですか」
「うむ、一つの家のこと」
「真田家の中の」
「そのうちの一つの家だけのことだ」
要するに幸村の家だけのことだというのだ。
「所詮はな、しかも拙者はまだ若い」
「お子が出来ることは」
「まだまだ充分に望みがある」
今は出来ていないがというのだ。
「これからじゃ、だが」
「それでもですか」
「太閤様はそうはいかぬ」
「天下人であられますし」
妻も応え、二人は今は共に床の上に共に座して話している。障子が白くなりだし外から雀の声が聴こえてきている。
「私共以上に」
「お子が大事じゃ」
天下の跡を継ぐ、というのだ。
「しかももう五十を越えられた」
「余計にですね」
「もうお子が生まれることはないだろう」
「だからですね」
「関白様を迎えられたのじゃ」
秀次、彼をというのだ。
「そうされたのじゃ」
「まさに」
「色々とされたがな」
捨丸が生まれる前にもだ。
「養子を入れられて」
「そうでしたね、かつては」
「そうされた、しかしな」
「しかしとは」
「昨夜の話だが子は神仏から授かるもの」
朝もだ、幸村はこ
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ