巻ノ六十六 暗転のはじまりその八
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「天下を治められるな」
「その様ですな」
「では豊臣家の天下は決まりですな」
「殿はここは内の政に務めるべきで戦はすべきでないと言われていますが」
「それでも」
「足場はまた固められるか」
幸村は何処か妥協して言った。
「次の機会にな、しかし三好様がおられる」
「太閤様の次の天下人が」
「では天下は定まりますか」
「豊臣家の下に」
「そうなりますか」
「おそらくな、関白様に何かなければ」
それでというのだ。
「次の天下人じゃ」
「揺らぐことなく」
「そうなりますな」
「天下はまとまったまま」
「そうなりますか」
「あの方なら大丈夫じゃ」
秀次、彼ならとだ。幸村は言った。
「天下人として務まる、お若いし才気もあり人を見る目もお持ちじゃ」
「若くよい家臣を多くお持ちとか」
「そしてその家臣の方々をよく使われているとか」
「家臣の方々の忠義も強く」
「よくまとまっているのですな」
「だからじゃ」
そうした状況だからというのだ。
「必ずな」
「あの方ならばですな」
「天下は安心していい」
「では、ですな」
「何はともあれ天下の泰平は守られる」
「関白様の後も」
「そうなるであろう」
幸村は安心している声だった、実際に。
「では我等は安心してですか」
「我等の務めを果たしていい」
「そうなりますか」
「おそらくな、ただ外での戦になるようであるから」
唐入りのことをだ、幸村は家臣達にそれとなく話した。
「その話はよく集めて吟味していこうぞ」
「畏まりました」
「ではそちらを進めつつ」
「我等は都で務めていきましょう」
「このまま」
「その様にな」
幸村はこの時はこう穏やかに言えた、だが。
その夜だ、十勇士達と共に屋敷の縁側で酒を楽しんでいるとだ、星の動きを見て血相を変えてしまった。
「これは」
「星ですか」
「星の動きで、ですか」
「何かありましたか」
「西の星の動きが荒れておる」
こう言うのだった。
「戦は近い、そしてな」
「その戦は、ですか」
「危うい」
「そうだというのですか」
「苦しい戦になる」
そうなるというのだ。
「そしてじゃ」
「まだありますな」
「そうなのですか」
「うむ、凶星が輝いておる」
こうも言うのだった。
「これはかなりな」
「危ういですか」
「うむ」
頷くしかなかった。
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