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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百十話 挑発
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映った。間違いない、総旗艦ロキだ。細長い艦首と滑らかな艦体、これまでの帝国軍の標準戦艦とは明らかに艦型が違う。
大広間に沈黙が落ちた。皆不安そうに顔を見合わせている。この不安こそが貴族達の本心だ。これまでの嘲笑や出撃を求める声など強がりに過ぎない。それを証明するかのように若い貴族の声が上がった。
「出撃だ、今こそヴァレンシュタインに我等の実力を見せるときだ」
「そうだ、出撃だ」
「落ち着け、今出撃しても敵は逃げるだけだ、何の意味も無い」
「しかしブラウンシュバイク公」
「落ち着け! グライフス、卿の意見を聞きたい。ヴァレンシュタインが自ら最前線に出てきた理由は何だと思う?」
周囲の視線を浴びつつグライフスは自らの答えを確かめるかのようにゆっくりと話し始めた。
「一つは挑発かと思います。自らが餌になることでこちらを激発させようとしているのでしょう」
グライフスの言葉に出撃を叫んだ若い貴族が唇を噛んだ。
「であろうな、他には」
「おそらくはこちらが挑発に乗らぬと見て自らの目で我等を確かめに来たのでしょう」
「確かめに来たか……、では」
「近日中に大軍をもって攻め寄せてくる心積もりかと思います」
グライフスの言葉に大広間の空気が緊迫した。皆緊張した表情をしている。誰もが決戦の時が来たと分かったのだ。自然と皆がスクリーンに映るロキを見詰めた、漆黒の戦艦を……。
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