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霊群の杜
書に潜む
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崎家に近寄ろうとしない。結局休みの間、プリントを届けるのは俺の日課になった。
そして俺たちは友達になった。
問題児のいじめっ子は家庭環境に悩む普通の子供。そんなテンプレな解答を、荒れ果てた自宅が物語っていた。



「毎週毎週、こんな重いのばっか注文しやがって…嫌がらせか!!」
いつも通り適当なくぼみに腰かけ、鴫崎は荷物を蹴る。顧客の荷物を蹴る。多分中身は本だ。仕事とはいえ、本がぎっしり詰まった箱を抱えてあの石段を毎週登る鴫崎には同情を禁じ得ない。
「お前アレだろ、まだ根に持ってるだろう」
「こっちだって毎週恨み言を云われるこの状況は、閉口だねぇ。エリア替えとかないのか」
「したよ何度も!だがどういうわけか『じゃAエリアと玉群神社』『じゃBエリアと玉群神社』…てな、お前んとことセットにされるんだよ!!」
あぁ…そりゃ100%、玉群家の力が働いてるな。事情を知らない配達員に洞の存在を知られると面倒だ。
「とにかくお前な、俺が云うのもなんだが、外に出ろ!本屋で読みたいのを探せ!!思わぬ出会いがあるかもしれないぞ」
「あるか、今更そんなもん」
「なら手当たり次第に本を買って段ボールに詰めてそのまま石段を駆け上がれ。俺の気持ちを知れ」
「嫌だよ。…いい時代になったものだねぇ、ポチるだけで本が手元に届く」
「そりゃあ引きこもりも増えるわな。…お前はいずれ殺すが」
この一連のやりとりの間、一度たりとも目を上げない。そりゃムカつくわな。俺も手土産から銅鑼焼きを一つ抜いた。



「お前んとこの荷物が殺意を覚える重さなのは毎回なんだが…あ、きじとらちゃん、麦茶もう一杯くれる?」
よく冷えた銀の水差しを持って、きじとらさんがすっと鴫崎の横に立った。
「いいよいいよ、水差しごと置いてよ」
「温くなるので…」
きじとらさんは音もなく麦茶を注ぐと、水差しを持ったまま洞の奥に下がる。
「いいコだよなぁ〜、今どき居ないよな、あんなコ。可愛いし」
「荷物が重いのは毎回だが…どうした?」
話題を逸らす。ライバルは少ないに限る。
「お、おう。…偶に、シャレにならないくらい重いやつがあるよな。今日のやつみたいな」
2個目の銅鑼焼きに伸ばしかけた奉の手が、ふと止まった。
「……今日のも、か」
「そうだよ、てめぇの注文内容くらい把握しておけよ!」
麦茶飲んで甘いもの食って落ち着いたのか、語気から殺意が少し抜けた。子供の頃からだが分かりやすい男だ。
「図鑑セットでも買ったのか?殺すぞ」
奉は無言で立ち上がると、荷物の傍らにすいと屈んだ。
「………入ってるねぇ」
にぃ、と唇の端が釣り上がった。煙色の眼鏡の奥は見えない。


ふいに、洞に溶け込んだ書の群れがぐらりと傾いだ。そして身をよじるように左右に揺れた。


「う
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